【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
 チラリとランドルフを窺い見ると、彼は額に青筋を立ててアナスタシアへ射殺さんばかりの鋭い眼差しを向けていた。彼の不機嫌顔を見慣れているリーゼですら、その表情にゾクリと背筋が凍る。

「……アナスタシア。お前は一体何をふざけたことを言っているんだ?」

 地の底を這うような低声が応接間に響く。
 力いっぱいリーゼの悪態をついていたアナスタシアがその動きを止め、声の方へと視線を向けた。
 
 眉間に深く皺を刻むランドルフはさながら冥界の王のよう。アナスタシアが小さく悲鳴を上げる。

「ランドルフ兄様……私は兄様のためを思って……こんな方より兄様には私の方がふさわしくて……」

 先程までの威勢はどこへやら。アナスタシアの声はか細く震えていた。
 
「俺が選んだ俺の妻を扱き下ろすことが俺のためだと言うのか?」
「だって……元は私が兄様と……」
「それはお前の親が勝手に妄想していただけだ。俺はお前と結婚するつもりは微塵もなかった」
「うそ……」
「嘘なわけないだろう。縁戚だからとお前の我儘には散々付き合ってきたが、これ以上は看過できない。今後はこの家に出入りすることを禁じる。叔父上にも抗議をしておくからそのつもりでいろ」
「そ、そんな……」

 アナスタシアの瞳が揺らぎ、涙がポロポロとこぼれ落ちる。散々罵倒された身であるが、泣かれるとちょっと罪悪感が湧き起こってくる。
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