【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
「これを、私に下さるんですか……?」

 感激のあまり、声がわずかに震える。
 リーゼには勿体ないほどの美しい一品だ。間違いなく高価なものであるし、分不相応なこともわかっている。

 でも、嬉しかった。喜びが胸に充満して苦しく感じるほど。

「ああ。さすがに君に頼まれた歌劇のチケットを用意しただけでは詫びとしてどうかと思ったからな。君の好みに合えばいいが」
「そんな、あの、とても嬉しいです。本当に、とても」

 自分のためにランドルフがわざわざ選んでくれたのだとわかって、頬に熱が集まる。随喜するこの心をうまく言葉で表せないのが口惜しい。

「今日の装いにもお似合いですわ、ほら」

 サッとエイダが髪飾りを取って、結ったリーゼの髪に挿す。

「ああ。よく似合っているな」

(え……?)

 不意に聞こえたランドルフの声にリーゼの体が強張る。
 幻聴?それにしてはハッキリと聞こえた。

 直後、パタンと扉が閉まる音がして、エイダが部屋を去ったことにも気づかないまま、リーゼは思考停止状態に陥っていた。
 すると鏡の中のランドルフが、おもむろに帽子を被り直していた。

「準備はできたか?そろそろ行くか」
「行く……?」
「観劇に行くんだろう?」
「は、はい……でも団長は?」

 その途端、ランドルフがムッと顔をしかめた。
 その表情で、リーゼはまた呼び方を間違えたことに気づき、慌てて口を噤む。職場では役職呼びが許されているので、未だにランドルフを名前で呼ぶことは慣れない。
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