【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
 ため息をつきたくなるのを我慢していると、不意にリーゼの部屋の扉が叩かれた。続いて「俺だ」と凛としたバリトンが聞こえてきて、リーゼはギョッと目を見開く。

(だ、団長?!)

 ランドルフの突然の訪問に動揺しすぎて返事もできないでいると、代わりにエイダが「お入りいただいても結構ですよ」と入室の許可を出してしまった。
 心の準備ができてないから待ってほしい!という心の叫びも虚しく、ガチャリと音がして扉が開く。

 鏡越しに見るランドルフは、いつにも増して凛々しかった。
 黒に近い深緑のジャケットと、共布で作られたトラウザーズ。ジャケットの中に緻密な刺繍が施されたアイボリーのウエストコートをしっかりと着こなし、艶のある黒のハットまで被っている。言うまでもなく、外出用の装いである。

(どこかに出かけるのかしら……?)

 誰と?なんて考えて、たちまち胸にモヤがかかる。無論、リーゼに彼の行動を制限する権利などないので、聞くことはできない。

「せっかちですわねぇ、坊っちゃま。リーゼ様のお支度はまだ終わっておりませんのに」

 ランドルフの幼い頃から仕えているだけあって、彼を嗜めるエイダの口調は気安い。
 
「その言い方はやめろ。……リーゼに渡すものがあったんだ。これを彼女に」

 そう言って、ランドルフは赤いベルベット地の小さな箱をエイダに手渡した。
 エイダはすぐに箱の中身をリーゼに見せてくれた。

「わあっ……」

 入っていたのは、薔薇の形を模した金細工の髪飾り。花弁の部分にグレーがかった金剛石が散りばめられていて、光を受けてキラキラと輝いている。
 精緻な美しさに、リーゼの口から思わず感嘆の声が漏れた。
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