【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
 それにしても、凶暴な魔物か、獰猛な肉食獣かにでも遭遇したかのような、あの怯えた態度は一体なんだったのだろう。
 前回会いまみえた際の高慢な振る舞いとは打って変わったアナスタシアの様子に首を傾げていると、鼻にかかった嘲笑が聞こえてきた。

「さすがにあいつも懲りたようだな」
「……ランドルフ様。あの、アナスタシア様に何かされたんですか……?」
「何もしていない。ただ、小一時間説教をしただけだ」
「はあ……」
 
 それで、アナスタシアがあんなにも怯えた態度をとるようになるなんて、どれほど苛烈に糾弾したんだろうか。
 仔細は知らない方がいい気がして、リーゼは曖昧に頷くだけに留めておいた。

 ランドルフが困惑するボーイに再び案内するように促す。再び歩き始めたボーイに案内されたのは、中央に程近い席だった。

(す、すごいわ……)

 舞台の真正面に位置する二階のボックス席は王族専用だが、この席はそのロイヤルボックス席にかなり近い。
 舞台の全景を望むことができ、鑑賞自体初めてのリーゼは他の席と比較することはできないが、それでもかなりいい席だと断言できる。
 先程アナスタシアに出くわした際の気まずい気持ちは、この絶景を前にして既に吹き飛んでいた。

 席に着くと、ランドルフはすぐに二人分のシャンパンをボーイに注文した。ボーイが出ていくと、リーゼは彼の方に体を向けた。
 帽子を脱ぎ、タイを緩めて背もたれに身を預けていたランドルフが、それに気づいて流し目をこちらに寄越す。
< 74 / 170 >

この作品をシェア

pagetop