【更新】雇われ妻ですが冷徹騎士団長から無自覚に溺愛されています
 二階にある座席は全てボックス席で、円形の通路に沿ってズラリと扉が並んでいた。

 階段を上り終えるとすぐに、脇に控えていたボーイが近づいてきた。ランドルフが名乗ると、恭しく腰を折り、席へと案内してくれると言う。

 ボーイの後ろを歩いていると、にわかに鋭い視線を感じてリーゼは思わず足を止めた。

「どうした?」
「いえ……」

 先程ロビーで浴びせられた興味本位の眼差しとは違う、怨嗟のこもった視線が身体に突き刺さったようだった。
 微かに身の危険を感じて鳥肌が立った腕をさすっていると、不意に「ヒィッ!」とこの場にそぐわない甲高い悲鳴が背後から聞こえてくる。
 
 不審に思ってリーゼが振り返ると、そこには青ざめた顔で口元を手で覆ったアナスタシアが立っていた。
 体をガクガクと震わせ、怖気を露わにしている。気安く声を掛けるのは躊躇われる雰囲気である。

(でも一応、挨拶をした方がいいのかしら……?)

 かなり酷い仕打ちを受けたとはいえ、彼女は一応ランドルフの縁戚である。無視はできない。
 仕方なく一言挨拶をしようと向き直ろうとしたのだが。

「し、し、し、失礼致しますわ!」

 リーゼが口を開くよりも早く、アナスタシアは踵を返して大階段を駆け降りていた。
 そんなに急いで降りると危ないんじゃ……と思ったが、わざわざアナスタシアを呼び止めたくはなかったので、そのまま見送ることにした。
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