契約夫婦はここまで、この先は一生溺愛です~エリート御曹司はひたすら愛して逃がさない~【極甘婚シリーズ】
「っ……!」
ガラスが重なり合う音がしたと思った次の瞬間、腕や胸が冷たくなる。
絨毯の床にグラスが落ちて転がるのを目撃した。
「ご、ごめんなさいっ」
やってしまった。
頭の中にまず浮かんだのはそのひと言。
私の前方不注意で、ドリンクサービスを行っているフロアスタッフとぶつかってしまったのだ。
慌てて床に落ちたグラスに手を伸ばす。上質な絨毯のおかげか、幸いグラスが割れるということはなかった。
でも、周辺を盛大に濡らしてしまったことに変わりはない。
「お客様申し訳ございません。おケガはございませんか?」
「私は大丈夫です。すみません、グラスと絨毯が」
拾ったグラスを手に、どうしたらいいのかとおろおろする。
「本当にすみません! 割れてはいないようですが、絨毯も汚してしまい」
「こちらは問題ございません。お客様、お召し物が」
「私のことは構わずで! あの、床の掃除はさせていただきますので──」
そんなやり取りをしている時だった。
不意に背中に誰かの手が触れてきて、驚いて振り返る。
目の前にスーツとネクタイの胸元が現れ、見上げた先には見知らぬ男性の顔。その美しい横顔に一瞬目を奪われた。整っていて、まるで彫刻のよう。流れる黒髪はきっちりとセットして整えられている。