この異世界ではネコが全てを解決するようです 〜ネコの一族になって癒やしの力を振りまいた結果〜
第一章 猫ネコ子ネコ
1話 タマとミケ
珠子、と私に名付けたのは、海女をしていた父方の曽祖母だった。
真珠のように美しく輝く娘であれ、という願いが込められているそうだ。
小さい頃から、タマ、タマ、と猫みたいに呼ばれていたのが理由ではないが、短大に通うかたわら繁華街にある猫カフェでアルバイトをはじめ、卒業後もそのまま働く予定だった──半年前までは。
「──さて、お待たせしちゃったかな?」
お茶のセットが載ったワゴンを脇に寄せた私は、見上げるほど大きく重厚な扉の前に立った。
コツン、と黒いパンプスの踵が鳴る。
クリーム色のワンピースと白いエプロンドレスを整え、左の腕にあった白くてモフモフの毛玉を抱え直すと、その香りが鼻を掠めた。
「ふふ……日干ししたお布団みたいな、いいにおい」
私は頬を緩めつつ、顎のラインで切り揃えた髪も手櫛で整える。
もともとは日本人らしい黒髪だったのだが、半年前のある出来事を境にして、名前の由来となった真珠──そして、腕の中のモフモフとそっくりな色合いに変わった。
最後に左の脇腹を撫でたのは無意識だ。
身嗜みが整ったのを確認すると、右手でコンコンと扉を二回叩き、声を張り上げる。
「珠子です! 参りました!」
「──入れ」
扉の向こうからは、即座に返事があった。
硬質な印象の、若い男性の声である。
私はワゴンを脇に置いたまま、早速右手で扉の取手を掴んだのだが……
真珠のように美しく輝く娘であれ、という願いが込められているそうだ。
小さい頃から、タマ、タマ、と猫みたいに呼ばれていたのが理由ではないが、短大に通うかたわら繁華街にある猫カフェでアルバイトをはじめ、卒業後もそのまま働く予定だった──半年前までは。
「──さて、お待たせしちゃったかな?」
お茶のセットが載ったワゴンを脇に寄せた私は、見上げるほど大きく重厚な扉の前に立った。
コツン、と黒いパンプスの踵が鳴る。
クリーム色のワンピースと白いエプロンドレスを整え、左の腕にあった白くてモフモフの毛玉を抱え直すと、その香りが鼻を掠めた。
「ふふ……日干ししたお布団みたいな、いいにおい」
私は頬を緩めつつ、顎のラインで切り揃えた髪も手櫛で整える。
もともとは日本人らしい黒髪だったのだが、半年前のある出来事を境にして、名前の由来となった真珠──そして、腕の中のモフモフとそっくりな色合いに変わった。
最後に左の脇腹を撫でたのは無意識だ。
身嗜みが整ったのを確認すると、右手でコンコンと扉を二回叩き、声を張り上げる。
「珠子です! 参りました!」
「──入れ」
扉の向こうからは、即座に返事があった。
硬質な印象の、若い男性の声である。
私はワゴンを脇に置いたまま、早速右手で扉の取手を掴んだのだが……