この異世界ではネコが全てを解決するようです 〜ネコの一族になって癒やしの力を振りまいた結果〜
 ふわふわと空中を漂うそれを、ネコ達は爛々と目を輝かせて見つめていたが、ミケや将官達が気づいている様子はない。
 私が、人間の目には映らない負の感情を目視できるのも、黒い綿毛の状態にして引き剥がせるのも、ネコとともに異世界転移した影響だった。

『っしゃああ! いいぞぉ、珠子! どんどん引き剥がせい! 我がみんな食ろうて、子を増やすための糧にしてくれるわっ!』

 ネコが長テーブルの上でぴょんぴょんと飛び跳ね、私がミケから引き剥がした黒い綿毛を食らい始めた。
 将官達と遊んでいた子ネコ達も、一斉にこれに倣う。
 何しろ、人間みたいに知能の高い生き物の負の感情こそが、彼らの唯一の糧となるのだ。
 黒い綿毛を認識できない将官達には、ネコ達がただ戯れ合っているように見えただろうし、自分達も遊ぶふりをしながら彼らに負の感情を食われていたなんて知りもしないだろう。
 ただ、負の感情を食べられた方も、心の負担が軽くなるため一石二鳥である。

『ふむふむ……重責を担うがゆえの焦り、不安。戦争を起こしたラーガスト王国への怒り……その他諸々、抱え込んでおるなぁ』

 ペロリと口の周りを舐めながら、ネコがミケの負の感情を吟味する。
 私がそれを引き剥がしたとて、ミケを苛むものが完全になくなるわけではないが……

「タマの髪……何やら甘い匂いがするな。どこで寄り道をしていた?」
「王妃様がハーブキャンディを作るのを見学したからですかね。いくつか持たせてくださったんですけど、ミケも食べますか?」
「食べる。口に入れてくれ」
「はいはい」

 ここでようやく私の頭から顔を離したミケは、目の下の隈が少しだけ改善していた。
 その口に、エプロンのポケットに入れていた包み紙からキャンディを一つ取り出し放り込む。
 そんな私とミケのやりとりを、黒い軍服をネコ達の毛だらけにした将官達が、微笑ましそうに見守っていた。
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