この異世界ではネコが全てを解決するようです 〜ネコの一族になって癒やしの力を振りまいた結果〜
 ここで、扉の側に放置していたワゴンを届けてくれたロマンスグレーの髪と口髭の上品な紳士──ただし、筋肉ムキムキである──がしみじみと言う。

「いやはや、大変癒やされました。ネコというのは、まことに尊い生き物でございますな」

 ベルンハルト王国軍でミケに次ぐ地位にある大将、ミットー公爵だ。
 その軍服のポケットからは猫じゃらしの柄が飛び出していた。
 国王様とは幼馴染の間柄で、ミケのアドバイザー的立ち位置の頼もしい人物である。
 ミットー公爵の着席を見届けると、その息子である准将以外の将官達も次々に席に着いた。全員仲良く子ネコの毛だらけである。
 その子ネコ達はミーミー鳴きながら、ワゴンの上でお茶の用意を始めた私の側に集まってきた。
 小さなモフモフ達が戯れ合う姿に、将官達がまた盛大に顔面を蕩けさせる。

「「「「「「やーん、かわいーっ!!」」」」」」
 
 私は彼らの表情筋が元に戻るのか心配になりつつ、人数分のカップに紅茶を注ぎ、ミケ、ミットー公爵の順にテーブルに置いた。
 すかさず、他の将官達の分を手慣れた様子で配ってくれたのは准将だ。
 彼は新たな椅子を持ってきて、ミケとミットー公爵の間に私の席まで作ってくれた。

「いえ、私のような部外者が、元帥閣下と大将閣下の間に座るなんて恐れ多いです」
「何をおっしゃいますか、タマコ殿! あなたは殿下の命の恩人であるとともに、ネコちゃん達の専門家! ベルンハルト王国軍にとっては賓客中の賓客ですよ!」

 などと力説する准将も、それにうんうんと首を縦に振りまくる将官達も、半年前の最終決戦本陣に居合わせていた。
 そのため、図らずもミケを庇う形になった私に好意的なのだ。
 異世界から来たという私の主張を完全に信じているかどうかはともかく、訝しんで排除しようとする者はいなかった。

「タマ、おすわり」

 ミケに至ってはペットに命じるみたいに言ってくる。
 私がおずおずと椅子に腰を下ろすと、それを見てニヤリと笑ったネコが、長テーブルの上をこちらに向かって歩き出した。
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