この異世界ではネコが全てを解決するようです 〜ネコの一族になって癒やしの力を振りまいた結果〜
「私って、どうやっても元の世界には戻れないの? 絶対に?」
『我と一緒ならば、こことは違う世界に飛ぶことは可能だが、行き着く先を選ぶことはできん! よって、珠子が元の世界に戻れる可能性は限りなくゼロに近いっ!』

 ぶっきらぼうに答えたネコこと毛玉型異世界生物は、あらゆる世界において、人間のような知能の高い生物に依存して生きてきた。
 そのため、とにかく愛玩されやすい姿形に進化した、一種の寄生生物でもある。
 人間の負の感情を糧にして増殖し、その世界が飽和状態になると、一部がミツバチの分封のごとく新天地を求めて世界を渡るという。
 私を異世界転移に巻き込んだネコも、そうして巣立った一匹だった。

「まさか、謎の異世界生物と運命を共にする日が来るなんて、想像したこともなかったよ」
『我とて、人間の娘ができる日が来るとは思ってもみんかったわいっ!』
「また言ってる……あなたに産んでもらった覚えはないんだけどな」
『珠子は我の一部で命を繋いだんじゃから、我の子じゃろうが! 異論は認めんっ!』

 世界と世界の狭間に放り出され、私の身体は細胞レベルまでバラバラになった。
 その際、同じくバラバラになった──こちらは想定内──毛玉の細胞と一部が入れ替わり、それが接着剤の役目を果たしたおかげで、この世界に到着した時の私は人間の形に再生できていた……らしい。

『他の生物を一緒に異世界転移させるなんてのは、我にとっても想定外。人間一人を再生するのには、膨大なエネルギーが必要なんじゃぞ。とっさに、珠子自身の負の感情をそれに充てることを思いつくなんて、我ながら天才じゃな!』
「私の人見知りが改善したのって、そうして負の感情が消費されたからなのかな」

 髪の色がネコとお揃いになったのも、その言葉がわかるのも、ミケから負の感情を引き剥がせるのも、この体に異世界生物の成分が混ざったせいだろう。
 なお、ネコ達と違い、私は負の感情自体を糧にはできないため、普通に食物を摂取する必要があった。
 幸い、異世界のご飯もなかなかにおいしい。
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