この異世界ではネコが全てを解決するようです 〜ネコの一族になって癒やしの力を振りまいた結果〜
『げっへっへっ……珠子がすべきことなど、決まりきっとるじゃろうが──お前、その体を使ってあの王子を陥落せい!』
「はぁ!? なな、なんちゅうことをっ……!」
『あやつがお前のフェロモンにしか反応せんのだからしょうがないじゃろ。それに、珠子とてあの王子を憎からず思っとるじゃろうが』
「いや、ミケのことは確かに好きだけどさ……」

 悠々と咲き誇るバラに囲まれて、少女漫画の登場人物にでもなったような気分だが、あいにく自分が誰かと恋愛するイメージなんて露ほども湧かなかった。
 何しろ以前の私は筋金入りの人見知りで、友達さえいたことがないのだ。
 ミケに対して抱いている好意だって、恋愛感情ではなく親愛だろう。
 本人も主張していたとおり、ミケは私のこの世界における後見人であり、頼りになるお兄さんだった。

『我らがこの世界を制す第一歩として、未来のベルンハルト国王は、何としても押さえておかねばならんのじゃ! いいから、この母を言うとおりにしろいっ!』
「うわっ、最悪……毒親だ!」

 目下私がミケのためにすべきことは、この毒親に反抗し続けることかもしれない。
 ネコは本気で、全人類を籠絡して世界を我が物にしようと企んでいるらしいからだ。

『ぐっふっふっ……この世界をネコでいっぱいにし、人間どもは一人残らずおネコ様帝国の奴隷にしてやるんじゃい!』
「毛玉ができる速度はそんなに早くないから、今すぐ世界がどうにかなるわけじゃなさそうだけど……」

 ひげ袋を膨らませて張り切るネコに、私はげんなりした。
 そうこうしているうちに、バラのトンネルを抜ける。
 ここで私を出迎えたのは、やたらと高慢そうな声だった。

「──そこのあなた、お待ちなさい」
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