この異世界ではネコが全てを解決するようです 〜ネコの一族になって癒やしの力を振りまいた結果〜

10話 承認欲求モンスター

「トライアンの母親は、ラーガストの地方領主の娘だったらしい」

 時刻は午後一時を回り、私はミケと一緒にトラちゃんの部屋を後にした。
 私はこの後、王妃様を訪ねるつもりだが、その前に軍の施設へ戻るミケを見送るため王宮の玄関に向かう。
 昼食を詰めてきたバスケットの後片付けは侍女に任せ、腕にはネコを抱えていた。
 侍従長の負の感情を食らって満腹のネコは、お腹の毛に潜り込んだ子ネコ達を抱くようにして丸くなっている。
 しゃべりさえしなければ普通の猫と変わらないため、その満足そうな寝顔を見ると自然と癒された心地になった。
 しかし、ミケの言葉が私を現実に引き戻す。

「元々は王太子付きの侍女だったが、国王に見初められてしまったことで随分と苦労したようだな」
「うわぁ……息子の侍女に手を出すなんて……。トラちゃんのお母さん、他のお妃様なんかにいじめられた、とかですか?」
「ああ、いかに国王の寵愛を受けようとも、後ろ盾が地方領主では弱過ぎるからな。凄惨ないじめを受け続け、トライアンを生んだ頃から急激に精神を病んでいったらしい」
「じゃあ……トラちゃんはそんなお母さんしか知らないんですね……」

 心が壊れて人形のようになってしまった母を、トラちゃんは物心ついた頃から面倒を見てきたようだ。
 父親である国王は金銭的な援助こそ怠らなかったものの、この頃にはすでに別の相手に夢中になっていたという。
 私はミケと並んで王宮の廊下を歩きながら、居た堪れない心地になった。

「トラちゃん、ヤングケアラーだったんだ……私の元の世界でも、問題になってましたよ。本来大人が担うべき家事とか、家族の世話や責任を負わされている子供がいるって」
「皮肉なことだが、トライアンは捕虜になったことでその重圧から解放されている。だから今しばらくは、母親と離しておくべきだと思うんだ」

 終わりの見えない戦後処理に疲れ果てながらも、自国のみならず敵国の王子まで気にかけるミケのことは尊敬する。
 しかし、彼もまた多くのものを背負い過ぎているのではないかと、私は心配になった。
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