店長代理と世界一かわいい王子様 ~コーヒー一杯につき伝言一件承ります~
 深く淹れたコーヒーみたいな色合いのイヴの瞳が、夕闇が迫る中でもキラキラと輝いている。
 彼女の目は、ウィリアムの頭の上──そこににょきっと生えた、モフモフの獣の耳に釘付けになっていた。

 アンドルフ王家の先祖は、かつて食物連鎖の頂点に立っていたオオカミ族である。
 地殻変動以降は、ヒト族を皮切りにさまざまな種族の血が入ったものの、時折オオカミ族の特徴を強く持つ先祖返りが生まれた。
 ウィリアムが、そうだ。
 普段はヒト族と似通った、ごく一般的な人間の姿をしているが、先ほどオズを捕まえた時のように獣人由来の飛び抜けた身体能力を発揮したとたん、その姿もかつてのオオカミ族──銀色の毛に包まれた三角形の耳と尻尾が生えた状態になってしまうのである。
 マンチカン伯爵家のジュニアのように、常に獣人の特徴が出ている先祖返りよりも実は希少で、一説では生粋の獣人よりも身体能力で勝るという。

「はあ、かわいい……」
「……」

 普段から愛想がよくニコニコしていることが多いイヴだが、この姿のウィリアムを前にした時ほどの笑顔を見せることはなかなかない。
 それを知っているからこそ、ウィリアムは一瞬天を仰いだものの、結局は膝を折るのだった。
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