すずらんを添えて 幸せを
第七章 父と息子
「………尊、尊?おい、起きろ。尊!」

自分を呼ぶ男の人の声がして、俺は、んん?と顔をしかめる。

「まったく…。相変わらずよく寝るやつだな」

(誰だ?この声。聞き慣れないな)

そう思った次の瞬間、ハッとして目を開ける。

違う、聞き慣れない声なんかじゃない。
ずっと昔から知っている声。

この声は…

「…父さん」

思わず口をついて出る。

目の前に、あのチェストの上の写真と同じ顔で笑っている父さんの姿があった。

「久しぶりだな、尊。大きくなって」

「と、父さん?ほんとに?」

「ああ、感動の親子の再会だな」

「いや、それは困る」

「は?なんでだよ?」

父さんは出鼻をくじかれたように、笑顔を消した。

「だって、そしたら俺はあの世に来たってことだろ?母さん一人残して。それなのに感動の再会とか、言ってる場合か?」

父さんはしばらくポカンとした後、嬉しそうに笑い始めた。

「いやー、尊。お前、いい男になったな。さすがは父さんの息子だ」

「は?だからなんでそんなに嬉しそうなんだよ。母さんが心配じゃないのか?」

「お前がついてくれてるなら、何も心配いらないな。尊、これからも母さんを頼む」

「え、それって…」

すると父さんは、ヨイショとその場に座り込んだ。

「ま、立ち話もナンだし。男同士、ゆっくり座って話そうぜ」

ポンポンと隣を叩いて俺を促す。

仕方なく、俺もその場に足を組んで座った。

見渡すと、辺りは真っ白で何もない。

とにかく今は父さんの話を聞くことにした。
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