この悲しみも。……きっといつかは消える
 専属執事のロイズがカールトンの来訪を夫に知らせる為に、寝室に入ってきたことにも気付かなかった。
 それをミルドレッドは恥ずかしく思ったが、眠気が勝ち、夫の言葉もあって再び深い眠りに落ちた。


 20歳のミルドレッドは現在は妊娠4ヶ月。
 妊娠初期からの眠気が今も続いていて、愛妻の体調を一番に案じるスチュワートはいつも、彼女を休ませたがった。


 アダムス家待望の第一子だ。
 男児ならそのまま跡取りだが、女児なら他に男児が生まれなかった場合は、次期レイウッド女伯爵になる。
 どちらにしろ、誕生までは大事を取らせたい。


 この時点ではスチュワートも、大雨による被害で領地が深刻な事態になっていることに気付いてはいなかった。
 ……ましてや、自分の運命など。



     ◇◇◇



 次にミルドレッドが目覚めたのは、廊下をバタバタと走る足音と、男性の大声と女性の叫び声が聞こえたからだった。
 それも何人もの声だ。


 アダムス家に嫁入りして、まだ1年を過ぎた位だが、この家で大声や走り回る足音等聞いたことはなかった。
 つまり、こんな異様な……
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