その溺愛、契約要項にありました?〜DV婚約者から逃れたら、とろ甘な新婚生活が待っていました〜
14 救いの手2
次に気が付いた時には、私は見慣れぬ場所で、医者と見慣れない御仕着せを着たメイドらしい女性たちに囲まれていた。
どうやらここはロブダート侯爵邸で、彼らはこの家の者だという。気が付けばドレスは脱がされ、簡単な寝巻に着替えさせられて、頬や首、腕などには濡れた布を当てられていた。どうやら気を失っている間に、手当までされていたらしい。
医師に体調やほかに負傷した場所はないかと聞かれ、いくらか言葉を交わしていると、慌てた様子でロブダート卿が入ってくる。
「旦那様! いくらご心配でも礼儀というものがございます!」
私の世話をしてくれていたメイドの中でも一番年長の者に、叱られて一瞬彼は怯んだように足を止めたが。
「目を覚ましたか! 体調はどうだ?」
私と目が合うとそんな小言は聞かなかったかのように、ベッドに駆け寄ってきた。
「おかげさまで……」
困惑しながらもそう答えれば、彼はほっとしたように息を吐いた。
「お倒れになられたのはおそらく貧血でしょう。恐ろしい思いをされて、さらに極限の緊張の中を走ってお逃げになっていたのなら無理はありません」
そう言って医師は、彼に対して私の身体の傷の様子について説明をしていく。
皮下出血は4か所、グランドリーに強くつかまれた肩と首、手首に腹。そして両頬の腫れに、馬車から飛び降りた際にできた膝の擦り傷と、逃げる途中に負ったらしい右足首の捻挫だ。
話を聞くにつれて、ロブダート卿が歯を食いしばるように口をつぐんで目を閉じた。
握られた拳は怒りのためか震えている。
「何があったとしても、女性の顔や腹に手を出すなど、許されるべきではない」
そう彼が低くうなると、医師がゆっくりと頷く。
「怪我の状況については詳しく報告書に起こさせていただきます」
「あぁ、至急頼む」
低く彼がそう告げると、医師は「では」と一礼して部屋を出ていく。
それに習ってか、メイド達も何も言わずにするすると退室していく。
そうして部屋の中には、私とロブダート卿が残された。
パタリと扉が閉められる音を確認すると、彼はゆっくりとベッドサイドに置かれていた椅子に腰かけて、怪我を負っていない方の私の手を取った。
「家の方には連絡をしたよ。君の居場所を伏せるよう頼んである。明日、お父上が君の顔を見にこちらにみえる事になった」
お二人とも大層心配しておられたよ。と言われて、私は目を伏せる。
二人にとってはまさに寝耳に水の話であっただろう。結局、心配させまいとしたことがさらに事態を悪化させてしまったらしい。
視線を上げて、彼を見据える。
「ありがとう」
きっと私を医師に託した彼は、すぐに私の家に走って、色々と根回しをしてくれたのだろう。
よく見れば、彼の格好は夜会の時のままだし、何なら髪も服も少しばかり乱れている。
きっと自分のことなどなりふり構わず動いてくれていたのだろう。
そんな私の視線に、彼は一瞬だけ何かを堪えるような顔をして、それを打ち消すように眉を下げた。
「ここは安全だ。何があっても俺が守る。とにかく今は、ゆっくりと休め」
そう言ってぎゅうっと手を握りなおされる。
そこでようやく私は自身の手が、小さく震えている事を知った。
「そろそろ鎮静剤が効いてくる頃だ。眠るまでここにいるから、安心して眠るといい」
そう言ってサラリと額にかかった髪を梳かれた。
どうやらここはロブダート侯爵邸で、彼らはこの家の者だという。気が付けばドレスは脱がされ、簡単な寝巻に着替えさせられて、頬や首、腕などには濡れた布を当てられていた。どうやら気を失っている間に、手当までされていたらしい。
医師に体調やほかに負傷した場所はないかと聞かれ、いくらか言葉を交わしていると、慌てた様子でロブダート卿が入ってくる。
「旦那様! いくらご心配でも礼儀というものがございます!」
私の世話をしてくれていたメイドの中でも一番年長の者に、叱られて一瞬彼は怯んだように足を止めたが。
「目を覚ましたか! 体調はどうだ?」
私と目が合うとそんな小言は聞かなかったかのように、ベッドに駆け寄ってきた。
「おかげさまで……」
困惑しながらもそう答えれば、彼はほっとしたように息を吐いた。
「お倒れになられたのはおそらく貧血でしょう。恐ろしい思いをされて、さらに極限の緊張の中を走ってお逃げになっていたのなら無理はありません」
そう言って医師は、彼に対して私の身体の傷の様子について説明をしていく。
皮下出血は4か所、グランドリーに強くつかまれた肩と首、手首に腹。そして両頬の腫れに、馬車から飛び降りた際にできた膝の擦り傷と、逃げる途中に負ったらしい右足首の捻挫だ。
話を聞くにつれて、ロブダート卿が歯を食いしばるように口をつぐんで目を閉じた。
握られた拳は怒りのためか震えている。
「何があったとしても、女性の顔や腹に手を出すなど、許されるべきではない」
そう彼が低くうなると、医師がゆっくりと頷く。
「怪我の状況については詳しく報告書に起こさせていただきます」
「あぁ、至急頼む」
低く彼がそう告げると、医師は「では」と一礼して部屋を出ていく。
それに習ってか、メイド達も何も言わずにするすると退室していく。
そうして部屋の中には、私とロブダート卿が残された。
パタリと扉が閉められる音を確認すると、彼はゆっくりとベッドサイドに置かれていた椅子に腰かけて、怪我を負っていない方の私の手を取った。
「家の方には連絡をしたよ。君の居場所を伏せるよう頼んである。明日、お父上が君の顔を見にこちらにみえる事になった」
お二人とも大層心配しておられたよ。と言われて、私は目を伏せる。
二人にとってはまさに寝耳に水の話であっただろう。結局、心配させまいとしたことがさらに事態を悪化させてしまったらしい。
視線を上げて、彼を見据える。
「ありがとう」
きっと私を医師に託した彼は、すぐに私の家に走って、色々と根回しをしてくれたのだろう。
よく見れば、彼の格好は夜会の時のままだし、何なら髪も服も少しばかり乱れている。
きっと自分のことなどなりふり構わず動いてくれていたのだろう。
そんな私の視線に、彼は一瞬だけ何かを堪えるような顔をして、それを打ち消すように眉を下げた。
「ここは安全だ。何があっても俺が守る。とにかく今は、ゆっくりと休め」
そう言ってぎゅうっと手を握りなおされる。
そこでようやく私は自身の手が、小さく震えている事を知った。
「そろそろ鎮静剤が効いてくる頃だ。眠るまでここにいるから、安心して眠るといい」
そう言ってサラリと額にかかった髪を梳かれた。