執愛音感~そのメロディは溺愛不可避~
抱き上げられた体。
揺れる視界が捉えたのは、寝室へ続くドア。
開いていたそれの奥にベッドが見えて、たまらず柾樹の胸板に顔を伏せる。

「……わざと煽ってません? 俺もギリギリなんですけど」
「わ、私だって……恥ずかしくて。あ、やっぱり、無理、かも」

抱き上げられたまま、足をじたばた動かして降りようとすると、逆に強く抱え込まれて頼りない抵抗も封じられる。
寝室ということもあり、一段と照明が絞られた室内は薄暗い。

これなら少しは恥ずかしさが和らぐかも。

期待した響子だが、降ろされたベッドの柔らかさに感嘆する間もなく覆いかぶさってきた柾樹に、明るさがどうこうなどと言っていられなくなった。

「あ、あ、あの、高階さ、」
「柾樹」
「え」
「貴方を愛する男の名前、ちゃんと呼んでください」

見上げれば、ベッドに乗り上げてきた柾樹だけが響子の視界を成している。
ふたりを隔てている距離は腕の長さの分だけ。

「まさき…………さん」

蚊の鳴くような声で応えて、ふいと横を向いた。
それだけで、柾樹には充分だったらしい。

「ありがとうございます、響子さん」

ふたりの距離がゼロになる。
ちゅ、ちゅ、と甲高く響いていた幼いリップ音が、吐息を纏って悩ましげなフレーズに導かれていく。
恐る恐る求めた指先が握られて、絡め取られて──響子の輪郭を、甘く彩っていった。
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