身代わり婚だったのに、極甘愛で満たされました~虐げられた私が冷徹御曹司の花嫁になるまで~
 ふたりが話しているのは祖母の病室である特別個室だ。
 入院当初の大部屋から移動させたのは耀だった。
 結乃も祖母もとんでもないと固辞したのだが『妻の祖母には最善の治療環境を準備する必要がある』と妙な迫力で押し切られてしまった。

「リハビリがんばれば身の回りのことは自分でできるようになるって先生も仰ってたから。家に戻っても大丈夫だね」

 実家のリフォームも本格的に話を進めなければならない。
 退院までには間に合わなくても、一時的に施設に入ってもらって万全な状態で祖母が帰れるようにしたい。

(耀さんと結婚している内は一緒には暮らせないけど、出来る限り帰るようにして、難しい時はヘルパーさんを頼めばいいよね)

 そして、耀と離婚してあの家に戻った時は以前のように祖母と一緒にいられるようになる。
 そう思った時、結乃の胸の奥で言いようのない切なさが湧き起こった。

(ぜんぶ私の希望どおりじゃない。嬉しいはずなのに)

 自分の気持ちに戸惑っていた結乃をじっとみていた祖母が「結乃、話があるんだけど」と切り出してきた。

「実は、あの家売ろうと思っているんだよ」

「――どういうこと?」
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