身代わり婚だったのに、極甘愛で満たされました~虐げられた私が冷徹御曹司の花嫁になるまで~
 祖母の手を握りながら結乃は俯く。
 
 祖母の為といいつつ一番あの家に拘っていたのは自分なのだ。
 あそこにしか自分の楽しい思い出は無かった。あの場所を失ったらもう両親にも祖父とのつながりが無くなってしまう気がするから。

「……結乃は今でも辛い夢を見るの?」

「えっ?」

 思いがけない話に顔を上げると祖母は悲しそうな顔でこちらを見ていた。

「おばあちゃん、知ってたの。結乃が家に戻ってきてからたまに夢でうなされているの。きっとお父さんとお母さんの夢をみていたんでしょう?」

 夢の話は誰にもしたことがなかったけれど、一緒に暮らしている祖母には気づかれていたようだ。

「おばあちゃん、結乃が苦しんでいるのがわかってて、どうしてあげたらいいかわからなくて……ごめんね」

「……いいの、辛くてもお父さんとお母さんに会えるのは嬉しかったから。それに最近は……」

 耀のマンションで初めて目覚めた朝を最後に一度も見ていない。

「宇賀地さん、言った通り結乃を守ってくれてるんだね」

 祖母はほっとしたような穏やかな笑みを浮かべた。

「耀さんが?」
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