婚約破棄されたら「血みどろ騎士」に求婚されました
 観劇の演目は、王都で今流行りの「ローザリンデの受難」だった。
 高貴な生まれのローザリンデは、父親の汚職が原因で家門が落ちぶれ、愛し合っていた婚約者とも引き離されてしまう。いつか必ず迎えに行くという婚約者の誓いだけを頼りに、彼女は家族を守るため断腸の思いで娼婦に身を落とそうとするが、それは隣国の王子によって阻止される。
 王子はローザリンデの家門が没落する前から、彼女に懸想していたのだという。しかしローザリンデには既に婚約者がいたので、余計な波風は立てまいと想いを明かすことはせずにいた。
 だが、ローザリンデが身を売らねば生きてゆけぬほどの窮地に立たされていること、愛を誓った婚約者が未だに姿を現さないことを知った王子は、いよいよ彼女に思いの丈をぶつける。

『ローザリンデ、日陰にあっても美しく咲き誇る花よ。どうか私の元へ来てほしい。我が妃となってくれ』
『ああ、殿下。わたくしは……わたくしは彼を待たなくては』
『未だ君の居場所さえ見つけられない男をか? 奴は君の命が尽きるまで、己の迎えを待てとでも言ったのか』
『いいえ、いいえ!』

 婚約者と王子の間で揺れ動くローザリンデ。婚約者と誓った幸せな未来を捨てることなど出来ないと思う反面、王子の情熱的な言葉と深い愛情にどうしようもなく心惹かれてしまう。
 そうしていよいよローザリンデが王子の手を取ろうかというとき、一切音沙汰のなかった婚約者が迎えに来る。婚約者はローザリンデと王子が抱き合う姿を見て激高し、なんと王子の胸に剣を突き立ててしまうのだ。

「まぁ」

 ローザリンデの悲鳴と共に崩れ落ちる王子。渾身の演技を見たアニスが小さく声を上げてしまうと、隣からくすりと笑われた。
 はしたないと思われただろうかとアニスが縮こまる間にも、舞台は続く。

『殿下! そんな……!』
『ローザリンデ。……ああ、君に怪我がなくて良かった』
『殿下、嫌、わたくしを置いていかないで!』

 ローザリンデの呼びかけも虚しく、王子はそのまま息絶えてしまう。家門の没落や、婚約者が一向に迎えに来なかったときの絶望とは比にならないほどの悲しみに襲われたローザリンデは、婚約者の手を振り払い、自らの首にナイフを押し当てる。

『まだあなたに言えてないことがあるのです、殿下。わたくしは──』

 その先の言葉が、ローザリンデの口から紡がれることはなかった。
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