婚約破棄されたら「血みどろ騎士」に求婚されました
◇
「──公爵様ったら、まだ結婚もしてないのにあんなに泣かれてたんですね。お式の日は一体どうなるんでしょう」
「ふふ」
メイドのシアが呆れる傍ら、母に「みっともない」と窘められながらハンカチでごしごしと顔を拭かれていた父を思い出し、アニスはくすくすと笑ってしまった。
二人は今、王宮へ向かう馬車に揺られている。縁談を進めるにあたり、直接ルディに伝えたいということでアニスが彼の元を訪ねることにしたのだ。
前もって彼宛てに訪問の連絡を入れたところ、「会えるのを楽しみにしている」という快い返事が来た。アニスはそんな事務連絡に等しい手紙ですら、彼の筆跡を見て口角を上げてしまう。我ながら重症ではないかと自嘲しながらも、王子の婚約者だった頃のように無理やり上機嫌を押し殺すような真似はもうしない。
だって、ルディはアニスのどんな顔を見ても嬉しそうに受け入れてくれるから。
『誰にも言わないし、怒らないから。俺に甘えてくれ、アニス。今まで甘えられなかった分も』
先日言われた言葉がまたもや蘇り、アニスは勝手に火照る頬を押さえた。そんなアニスを真正面から見たシアもまた、にやにやと微笑ましそうに口を歪めていた。
そうこうしている間に馬車は王宮へ到着し、アニスはシアの手を借りつつ門前に降り立つ。豪勢な前庭を突っ切りながら、ルディが滞在している貴賓館はどちらだったかと、何気なく辺りを見回したときだった。
「……あ……」
大きな楡の木を見上げる、細身の青年。明るい金髪は僅かに伸び、以前よりも少々痩せた頬が痛々しいが、生来の美貌は失われていないようだった。
するとアニスの視線に気づいたのか、彼もふと顔をこちらに向ける。咄嗟に見ない振りをしようとしたが、時すでに遅し。
彼が──パトリックが、零れ落ちそうなほど目を見開いた。
「──公爵様ったら、まだ結婚もしてないのにあんなに泣かれてたんですね。お式の日は一体どうなるんでしょう」
「ふふ」
メイドのシアが呆れる傍ら、母に「みっともない」と窘められながらハンカチでごしごしと顔を拭かれていた父を思い出し、アニスはくすくすと笑ってしまった。
二人は今、王宮へ向かう馬車に揺られている。縁談を進めるにあたり、直接ルディに伝えたいということでアニスが彼の元を訪ねることにしたのだ。
前もって彼宛てに訪問の連絡を入れたところ、「会えるのを楽しみにしている」という快い返事が来た。アニスはそんな事務連絡に等しい手紙ですら、彼の筆跡を見て口角を上げてしまう。我ながら重症ではないかと自嘲しながらも、王子の婚約者だった頃のように無理やり上機嫌を押し殺すような真似はもうしない。
だって、ルディはアニスのどんな顔を見ても嬉しそうに受け入れてくれるから。
『誰にも言わないし、怒らないから。俺に甘えてくれ、アニス。今まで甘えられなかった分も』
先日言われた言葉がまたもや蘇り、アニスは勝手に火照る頬を押さえた。そんなアニスを真正面から見たシアもまた、にやにやと微笑ましそうに口を歪めていた。
そうこうしている間に馬車は王宮へ到着し、アニスはシアの手を借りつつ門前に降り立つ。豪勢な前庭を突っ切りながら、ルディが滞在している貴賓館はどちらだったかと、何気なく辺りを見回したときだった。
「……あ……」
大きな楡の木を見上げる、細身の青年。明るい金髪は僅かに伸び、以前よりも少々痩せた頬が痛々しいが、生来の美貌は失われていないようだった。
するとアニスの視線に気づいたのか、彼もふと顔をこちらに向ける。咄嗟に見ない振りをしようとしたが、時すでに遅し。
彼が──パトリックが、零れ落ちそうなほど目を見開いた。