婚約破棄されたら「血みどろ騎士」に求婚されました
「……殿下。確かにわたくしは……殿下に恋心のようなものは、抱いておりませんでした」

 ぐっ、と握られた手に力が込められる。
 振り解けないほどの強さに眉を顰めつつ、アニスは「ですが」と口を開いた。

「殿下と、生涯を共にする覚悟はございました。あなたは苦楽を共にする唯一の相手なのだと、未熟ながら理解しているつもりでした」
「……!」
「しかし、殿下はそうではなかったのだと思い知らされたあの日……わたくしがどんなに傷付き、どれだけの憤りを覚えたか、殿下はご存知ないのでしょう」

 長年積み上げてきた窮屈な時間は、パトリックの隣に立つための努力だった。それをあのような形で否定されて、平気でいられるわけがない。
 パトリックはアニスに好いてもらいたかったと言うが、そう願う相手にやっていい仕打ちではなかった。恋心云々の話ではなく、人としての道理に反する行いだったと、アニスは言外に訴える。

「わたくしも完璧な人間ではありません。……これだけ殿下に不信感を与えてしまうのなら、少しぐらい素直に弱音を吐いた方が良かったのかもしれませんね」
「そ……そうだ。僕はアニスに頼ってもらいたくて……!」

 そうしてまた少し、手がパトリックの方へと引き寄せられたときだった。

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