婚約破棄されたら「血みどろ騎士」に求婚されました
 大変満足げな顔でカウチに腰掛けたルディの膝の上、我に返ったアニスはひたすら縮こまる。

「…………はしたないことを申してしまいました」
「構わない。むしろ大歓迎だ」

 先程の手つきとは異なる優しい動きで背中を摩られ、アニスの呼吸はようやく整ってきた。
 こうして温かい体に包まれていると眠ってしまいそうだが、アニスはよい機会だからと気になっていたことを尋ねてみる。

「ルディ様は……殿下と親しかったのですか?」

 疑問をぶつけられることは想定内だったのか、ルディはさして動揺した様子もなく「んー」と苦い笑みを浮かべた。

「親しかった……とは言えないな。子供の頃、それこそ貴女が王子の婚約者に選ばれて間もない頃だったか。父上と一緒に初めて陛下に挨拶に向かったんだ。そこで幼い王子の話し相手というか、まあ子守りというか……二人で過ごす機会があった。期間は短かったがな」
「まぁ、そうだったのですね」
「ああ。最初はよく懐いてくださったんだが、一週間ほど過ごすうちに段々と不機嫌になってしまわれて。何故だろうなと不思議に思っていたら……」

 ルディはアニスの髪にさらさらと指を通すついでに、その手のひらに残る剣だこを見遣る。彼の視線を追ったアニスが何となしに硬い皮膚をなぞれば、くすぐったそうな吐息が降ってきた。

「……俺が陛下に気に入られていることが、どうにも癪だったようだ」
「えっ」
「陛下がお若い頃、勇猛な騎士として名を馳せていらっしゃったことは知っているか? 俺の父とも馬上槍試合(トーナメント)でよく顔を合わせる仲だったらしくてな、お二人で思い出話に花を咲かせていらしたよ」

 国王の武勇伝は王立図書館の書物だけでなく、各地の吟遊詩人が好んで唄うため、貴族も平民も知るところとなっている。現役を退いた前辺境伯──つまりルディの父と一緒に隣国の襲撃を防いだ話は有名だった。
 国王と臣下という関係だけでは収まらない彼らの友情は今もなお続いており、固い信頼で結ばれている。
 そしてそんな親友の息子であるルディもまた、国王にとって大切な存在だったのだろう。

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