嫁いでから一度も触れてこなかった竜人皇帝が、急に溺愛してくる理由
* * * * *
あれから、皇帝陛下は体調がよくなったそうだ。
手紙が届き、そこにはお見舞いに対する感謝と共にお礼をしたいと書かれていた。
そして、手紙が届いた翌日から、服飾店のデザイナーや宝飾店のオーナー、家具などを扱う店の人達が来て、わたしは断る暇もなくドレスを作ることになり、今までにないほど沢山のネックレスやピアスなどを持つことになってしまった。
それに、今まで使っていた家具もほとんどが新しいものへと替えられた。
断ろうとしても皆「陛下のご命令ですから」と言う。
その間、シャロンに睨むように見られていて落ち着かなかった。
「あなた、陛下に何をしたの?」
と訊かれたが、わたし自身も分からなかった。
でも、王国から持ってきたドレスはどれも地味で、流行からも外れたものばかりだったので、新しいドレスには少し浮かれてしまった。それくらいどれも素敵なデザインだった。
だが、シャロンは気に入らなかったらしい。
「あなたみたいなのには似合わないし、勿体ないわ!」
不満そうな様子で一日中、文句を言っていた。
……確かに、わたしには華やかすぎるかもしれない。
それでも、一度くらいは流行を取り入れた綺麗なドレスに袖を通してみたかった。
「そうそう、今後は皇帝陛下との夜は避けなさい。他の使用人達に聞いたのだけど、皇帝陛下ほど強い竜人の子を孕むと死ぬかもしれないらしいわ。あなたが死んだら第二王女殿下が次の人質になってしまう。それは困るのよ」
「……分かりました」
それを聞いてチクリとまた胸が痛んだ。
……やっぱり、わたしは次代の皇帝を産むための道具なのね。
そんなことは分かっていたはずなのに苦しくなった。
服飾店や宝飾店、家具などの話が落ち着くと、皇帝陛下が訪ねてきた。
「贈り物は喜んでもらえただろうか?」
皇帝陛下の問いに、わたしは頷いた。
「……はい、陛下より賜りましたものは、大切に使わせていただきます」
ジッと皇帝陛下から視線を感じる。
「……そうか」
どこか納得したような、していないような、どうとも受け取れる声音だった。
こういう時に笑顔で「ありがとうございます」と言えれば可愛げもあるのだろうが、どうしても、わたしには過分な贈り物だという気持ちのほうが強くて、素直に喜べない。
一度手にしたものが奪われるつらさを知っているから、素晴らしいものほど、いつかわたしの手を離れていくと思っていたほうがいい。そのほうが、奪われても傷付かずに済む。
「話は変わるが、君の周りの使用人を増やそうと思う」
「え?」
皇帝陛下の言葉に驚いて顔を上げると、金色の瞳と目が合った。
「人見知りだと侍女から聞いているが、皇帝の妻に侍女がひとりしかつかないというのもおかしな話だからな。竜人ならばともかく、人間の王侯貴族は使用人を多くつけるのが一般的だろう? 何より、現状では侍女ひとりに負担がかかりすぎる」
背後でシャロンの気配を感じる。
恐らく、わたしに断れと視線を向けていることだろう。
「その、お断りすることは出来ないのでしょうか……?」
意を決して訊いてみたが、皇帝陛下が訝しげな顔をする。
「慣れない者達が周りにいると落ち着かないのだろうが、君につきたがっている使用人も多い。それとも、その侍女以外がつくと何か問題でもあるのか?」
と訊き返されてしまえば、それ以上は言えなかった。
「いいえ、そうではないのですが……」
「では、数日中に侍女やメイドを手配する。君が特に何かする必要はない。それに、この国でずっと暮らすのだから、皆とも交流を深めたほうがいい」
「……かしこまりました」
もはや決定事項のように皇帝陛下は言う。
……しばらく、機嫌が悪くなりそうね。
背後のシャロンの様子を見るのが怖かった。
皇帝陛下の決定から三日後、新しい侍女とメイドが来た。
侍女は三人、メイドは十五人ほどいて、こんなに必要なのかと驚いたけれど、常にわたしのそばや控えの間に侍女一名、メイドは三名から五名は控えるのだと聞いて納得した。
シャロンは表面上、笑顔で受け入れていたけれど、内心は不満と怒りでいっぱいだろう。
新しい侍女とメイドは半数以上が竜人だった。
使用人だが戦闘も出来るので、竜人の使用人は護衛も兼ねているらしい。
新しい侍女達も、メイド達も、優しくて丁寧で、仕事も早く、シャロンはどこか肩身が狭そうである。
常に新しい侍女かメイドがそばにいるため、シャロンは愚痴ひとつこぼすことも出来ず、今までのようにわたしに当たることも出来ず、どこかでそれが爆発するかもしれないとシャロンの顔色を窺って過ごす日々は息苦しかった。
あれから、皇帝陛下は体調がよくなったそうだ。
手紙が届き、そこにはお見舞いに対する感謝と共にお礼をしたいと書かれていた。
そして、手紙が届いた翌日から、服飾店のデザイナーや宝飾店のオーナー、家具などを扱う店の人達が来て、わたしは断る暇もなくドレスを作ることになり、今までにないほど沢山のネックレスやピアスなどを持つことになってしまった。
それに、今まで使っていた家具もほとんどが新しいものへと替えられた。
断ろうとしても皆「陛下のご命令ですから」と言う。
その間、シャロンに睨むように見られていて落ち着かなかった。
「あなた、陛下に何をしたの?」
と訊かれたが、わたし自身も分からなかった。
でも、王国から持ってきたドレスはどれも地味で、流行からも外れたものばかりだったので、新しいドレスには少し浮かれてしまった。それくらいどれも素敵なデザインだった。
だが、シャロンは気に入らなかったらしい。
「あなたみたいなのには似合わないし、勿体ないわ!」
不満そうな様子で一日中、文句を言っていた。
……確かに、わたしには華やかすぎるかもしれない。
それでも、一度くらいは流行を取り入れた綺麗なドレスに袖を通してみたかった。
「そうそう、今後は皇帝陛下との夜は避けなさい。他の使用人達に聞いたのだけど、皇帝陛下ほど強い竜人の子を孕むと死ぬかもしれないらしいわ。あなたが死んだら第二王女殿下が次の人質になってしまう。それは困るのよ」
「……分かりました」
それを聞いてチクリとまた胸が痛んだ。
……やっぱり、わたしは次代の皇帝を産むための道具なのね。
そんなことは分かっていたはずなのに苦しくなった。
服飾店や宝飾店、家具などの話が落ち着くと、皇帝陛下が訪ねてきた。
「贈り物は喜んでもらえただろうか?」
皇帝陛下の問いに、わたしは頷いた。
「……はい、陛下より賜りましたものは、大切に使わせていただきます」
ジッと皇帝陛下から視線を感じる。
「……そうか」
どこか納得したような、していないような、どうとも受け取れる声音だった。
こういう時に笑顔で「ありがとうございます」と言えれば可愛げもあるのだろうが、どうしても、わたしには過分な贈り物だという気持ちのほうが強くて、素直に喜べない。
一度手にしたものが奪われるつらさを知っているから、素晴らしいものほど、いつかわたしの手を離れていくと思っていたほうがいい。そのほうが、奪われても傷付かずに済む。
「話は変わるが、君の周りの使用人を増やそうと思う」
「え?」
皇帝陛下の言葉に驚いて顔を上げると、金色の瞳と目が合った。
「人見知りだと侍女から聞いているが、皇帝の妻に侍女がひとりしかつかないというのもおかしな話だからな。竜人ならばともかく、人間の王侯貴族は使用人を多くつけるのが一般的だろう? 何より、現状では侍女ひとりに負担がかかりすぎる」
背後でシャロンの気配を感じる。
恐らく、わたしに断れと視線を向けていることだろう。
「その、お断りすることは出来ないのでしょうか……?」
意を決して訊いてみたが、皇帝陛下が訝しげな顔をする。
「慣れない者達が周りにいると落ち着かないのだろうが、君につきたがっている使用人も多い。それとも、その侍女以外がつくと何か問題でもあるのか?」
と訊き返されてしまえば、それ以上は言えなかった。
「いいえ、そうではないのですが……」
「では、数日中に侍女やメイドを手配する。君が特に何かする必要はない。それに、この国でずっと暮らすのだから、皆とも交流を深めたほうがいい」
「……かしこまりました」
もはや決定事項のように皇帝陛下は言う。
……しばらく、機嫌が悪くなりそうね。
背後のシャロンの様子を見るのが怖かった。
皇帝陛下の決定から三日後、新しい侍女とメイドが来た。
侍女は三人、メイドは十五人ほどいて、こんなに必要なのかと驚いたけれど、常にわたしのそばや控えの間に侍女一名、メイドは三名から五名は控えるのだと聞いて納得した。
シャロンは表面上、笑顔で受け入れていたけれど、内心は不満と怒りでいっぱいだろう。
新しい侍女とメイドは半数以上が竜人だった。
使用人だが戦闘も出来るので、竜人の使用人は護衛も兼ねているらしい。
新しい侍女達も、メイド達も、優しくて丁寧で、仕事も早く、シャロンはどこか肩身が狭そうである。
常に新しい侍女かメイドがそばにいるため、シャロンは愚痴ひとつこぼすことも出来ず、今までのようにわたしに当たることも出来ず、どこかでそれが爆発するかもしれないとシャロンの顔色を窺って過ごす日々は息苦しかった。