恋も仕事も奪われた私ですが、お忍び社長に愛されているようです
 彼は扱っていたノートパソコンを私の方にくるりと向けた。どうやらメール画面のようで、
「そうならないためにも。俺は打ち合わせで出た内容はメールで残しているんだ」

 小久保さんと彼のメールのやり取りだった。先ほど彼が私に訴えたことをきちんと文面で残しており、それに対して小久保さんも「承知しました!」と肯定している。……頭が痛い。勝手にこんなことを決めて、しかも私への報告もなかった。
 簡単な案件のはずなのに、彼女がここの担当から外れたがった意味も理解した。

「申し訳ございません。こちらできちんと引き継ぎが出来ていなかったようで。一度社で検討し、改めてご連絡させていただきます」
「ったく頼むよ。というか担当、小久保ちゃんに戻してくれる?もう君は来なくていいから」
 
 ぴしゃりと彼は言い切りそれ以上私は反論はできなかった。まずは事実確認をしなくては。

 オフィスに戻ると、小久保さんは岡島さんとコーヒーを飲みながら談笑中だった。
 
「お二人ともすみません。Y社の件なのですが」

 重い口を開いて事情を話すと、小久保さんは見るからに落ち込んだ様子でうつむいた。報告と共に資料を見つめた岡島さんも困ったようにそれを見ると
「もうやってしまったことを責めても仕方ないだろう」
 まるで私を責めるようにこちらを見る。私は責めてなんていない。起きてしまったことを報告・相談しただけだ。

「ごめんなさい……」

 小久保さんは目に涙をためながら私に頭を下げる。そんな小久保さんの肩を岡島さんは優しく叩く。まるで私は悪役だ。

「過ぎてしまったことは仕方ないよ。これからのことを考えよう」

 二人から非難の目を向けられて、ぐっとこらえる。これからのことを考えた方がいいことは同意だから。誰が悪い、なんてことを追求しても仕方ない。

「どうしましょう。先方は小久保さんが受けた内容で進めてほしいと仰っていて」
「それが無理なことはわかるだろう」
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