恋も仕事も奪われた私ですが、お忍び社長に愛されているようです
 岡島さんは呆れを含んだ口調で吐き出すと、

「この内容ですすめるのであれば、予算は三倍かかる。そもそも凝ったサイトを作っていたら新作のPRに間に合わない。発売日に間に合わないサイトなんて本末転倒だろう」
「それは既に説明しました」
「それなら吉平の伝え方が悪かったんじゃないか」

 いつも穏やかな岡島さんの声が低くなる。

「……すみません」
「もう一度Y社に行ってくれるか?先方も冷静に考えれば無理だとわかるだろうし、社内で調整しても難しかったと伝えるんだ」
「先方は担当を小久保さんに戻してほしいとも仰っていまして」

 私の言葉に小久保さんはついに声を出して泣き始めた。

「む、無理ですよ!ミスした私を再度指名するなんて……先方が何を考えているのかわからなくて怖いです」
「小久保には無理だろう。ミスを招いた本人が出向くのはよくないんじゃないか。吉平が引き続き担当をしてくれ」

 ミスをした人こそ誠心誠意謝るべきではないだろうか。だけど小久保さんに任せたところで事態がよくなるとは思えない。
 
「……わかりました。岡島さんも同行いただけないでしょうか」

 悔しいけど上の人間や男性を出せばすんなりいくこともある。同行してもらえば……。

「吉平。俺に頼るのを卒業するんだろ?」

 岡島さんは微笑んだ。優しい瞳のはずがなぜか笑っていないように見える。じとりと背中に汗がにじむ。

「俺達は今から外に出るから。――小久保、行こうか」
「はい」
「少し時間があるからお茶でもしていこうか。気持ちを切り替えた方がいい。大丈夫か?」
「はいっ!ありがとうございます…っ」

 涙で目を赤くした小久保さんを気遣うように岡島さんは肩を抱いて出て行った。 泣きたいのはこっちだ。だけど心の中で悪態をついたって仕方ない。
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