恋も仕事も奪われた私ですが、お忍び社長に愛されているようです
 私はいつもの紺のスーツではなく、水色のワンピースに身を包んでいた。なぜこんなことになったのか。流されるばかりで未だに理解が出来ていない。

 あの後私たちを乗せたタクシーは有名なホテルの前に到着した。居酒屋でも行くのかと思っていたから戸惑っていると、タクシーから降りた美山さんは私をじっと見る。

「スーツだからそれでもいいが……そうだな」と呟き、ロビーから出てきたインフォメーションスタッフに何やら告げる。美山さんが声をかけたスタッフは私の元にやってくると「こちらです」と案内を始めようとする。

「え?美山さんは?」

 どうやらスタッフが誘導しているのは私だけで、美山さんはひらひらと手を振るだけだ。戸惑いながらも案内されたのはホテル内にあるブティックで、何着か合わせられその場でヘアメイクもされて――。
 そうして出来上がった私を見て、迎えに来た美山さんは満足気に頷いている。

「あの、何がどうなっているんでしょうか」
「食事をしにきた」
「そうですよね?この服は」
「ここはドレスコードがあるからな。スーツなら一応問題はないが、そっちの方が似合うだろ」

 そう言われてやたら肌触りのいい水色のワンピースを見やる。繊細なレースが美しい清楚なロングワンピースだ。
 
「お似合いですよ」

 にこにこと微笑む店員さんが全身鏡のもとに案内してくれたが……自分でも言うのもなんだけど、私によく似合っていた。それはふんわりと編み込まれた髪型や、いつもとは異なる丁寧なメイクのおかげだけど。それでもあつらえたようにしっくり馴染んでいる。

「レストランについているレンタルサービスなんですか?」
「いや? もうすべて購入した」
「ええっ困ります。私そんなお金ないですよ!」

 値札のついていないワンピースはとても素敵なものだけど、恐ろしい桁な気がして青ざめる。

「支払いは済ませてあるから問題ない。そろそろ予約の時間だから行くぞ」
 有無を言わせず、美山さんは私の手を繋いだ。
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