恋も仕事も奪われた私ですが、お忍び社長に愛されているようです
 変わったことと言えば、会議室で二人でお弁当を食べることくらい。美山さんが喜んでくれるから、朝少しだけ早く起きてはりきってお弁当を作ってしまう。お弁当を毎日一緒に食べるだけ。まるで高校生のような恋愛だ。

 定時を過ぎ、一人二人と帰宅していく。うちの社はわりとホワイトだから残業をする人は少ない。私が帰らないのも残業ではなく、コンペの準備だ。
 
「今日も残るのか?」
 今から帰宅するのであろう、カバンを手に持った美山さんが私に訊ねる。
 
「最終の大詰めです!あと数日ですしね」
「そうか。と数日たてば時間ができるんだな」
「え、まあそうですね」

 すると美山さんは私の近くまでやってきて私の耳元に口を寄せると

「時間ができれば、その時間は俺に独占させるように」と囁くから、耳から真っ赤になってしまう。上を見上げると、口角を上げてこちらの様子を伺っている。反応を見て面白がって……!

「だめか?」
「……いいですよ」

 私だってせっかく付き合えたのになかなか二人きりになれないのはもどかしいとは思っていたのだ。

「身体に気をつけろよ」
「ありがとうございます」

 だけどこうして言葉を交わすだけでもくすぐったいな。そう思っていると

「美山さん、少し相談しても良いでしょうか」

 小久保さんが前の席から顔を出した。眉を下げ何やら深刻な表情をしている。

「仕事のことで少し相談があるんです」
「なんだ。B社の件か?」
「いえ…」

 小久保さんは私たちのもとまでやってくると、声をひそめて美山さんの耳元でささやいた。

「ここでは言えないことなんです」
 小さな声は私のもとまで届く。
 
「リーダーに相談した方がいいだろ」
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