恋も仕事も奪われた私ですが、お忍び社長に愛されているようです
 ホールに入ると少しだけ足がすくんでしまう。支社の人たちはリモートで全国から見守り、本社にいる千人はこの会場にいる。こんなにたくさんの目を向けられることはない。
 私の発表順は十五番目なので、最初は客席でプレゼンを見ることにした。他の人の発表も勉強になるはずだ。

 会場内の電気が暗くなりブーッとブザーの音が響き、コンペの始まりを告げる。眩しいライトに照らされたステージが見える。あの場で発表すると思うと怖い。だけど大丈夫。自分を信じなくちゃ。私はポケットの中に入っているルージュをそっと握る。



 いくつかの発表が終わった。どこも企画の中身だけでなくプレゼンもうまい。さらに緊張を募らせるけど、自分の企画を頭の中で浮かべてみれば他の人と比べても悪くはないはずだ。
 ……あと五組で私の番だからそろそろ控室に移動しよう。そう思って腰を浮かせたところで

「十番目は……PR事業部の岡島さんと小久保さんです」

 司会進行の人の声が大きく聞こえて、私はステージに目を戻す。

 先ほどまで別の事業部の知らない人の発表ばかりで、見知った顔が壇上に出てくると親近感がある。どんな発表をするのだろう。私は席に座り直した。
 岡島さんがマイクを取り、小久保さんがノートパソコンを操作するとスクリーンに資料が表示された。

『ダイスラブ ~恋活アプリ~ PR事業部 岡島・小久保』

 スクリーンに浮かんだ文字に身体の温度が低くなる。まさか。

「PR事業部の岡島です。よろしくお願いします」

 スタイリッシュなスーツを着こなした岡島さんは爽やかな笑顔を浮かべて喋り始めた。

「みなさんはダイスエンジンの強みってなんだと思いますか?早速ですがクイズをさせてくださいね。三択ですよ。1.ユーザーの幅広さ。2.優秀なプログラマーが多数在籍していること 3.優秀なPRチーム、つまり僕たちがいること」

 会場からくすくすと笑いが漏れる。

「では手を挙げてくださいね、1だと思う人!多いですねえ。2だと思う人。これもまた多い。プログラマー陣がピンと手を挙げていますね。それじゃあ3の人。少ないなあ!」

 ただ説明するだけでなく会場を巻き込んでいく。何組か続けて聞いていたことで眠たそうにしてた隣の席の男性も、楽しそうにステージを見ている。

「では正解発表です。正解は全て!あはは、ずるいと思ったでしょう。でもこのすべての強みを生かしたのが今回ご提案するサービスなんです」

 掴みは抜群だった。さすが岡島さんだ。軽快で人を惹きつけるトークはいつだって助けられてきた。それが仲間ならば。
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