恋も仕事も奪われた私ですが、お忍び社長に愛されているようです
 岡島さんは掴みのトークを終え、小久保さんに向かって目線を送る。彼女が操作するとスクリーンに資料がうつしだされた。
 その内容を見て確信する。…完全に盗まれた。ほとんど私の資料をそのまま使っている。
 このまま発表されてしまえば、この数週間の私の努力が消えてしまう…!
 会場の雰囲気は完全に岡島さんのものだ。この空気の中でどうすればいいのだろうか。
 …二人は私を見下している。私が反論できずに泣き寝入りするタイプだとわかっているから。
 悔しい。悔しい…!唇をかみしめるとほんのりとローズの味がした。
 
 ……そうだ、勇気をもらったんだ。負けたくない。
 資料は三枚目にうつり――、これは私の古い資料だ。と気づく。ここから私は何度もブラッシュアップした。大丈夫、この企画を考えたのは私だ……!

 私はポケットから手早くルージュを取り出すと、薄く塗った。美山さん、おまじない受け取りました!

「ちょっと待ってください!」

 私は立ち上がり、大きな声を出した。こんな声出したことがない。のどが痛くて、指先が震える。
 波打ったようにシン、と会場が静まり返った。隣の男性がひどく驚いたようにこちらを見上げているのもわかる。

 「その企画、間違いがあります!」

 岡島さんと目があった。遠くからでも彼の爽やかな笑みが硬直し、私を睨んだ。だけどそれは一瞬のことで、

「…はは、言葉を言い間違えてしまったね。ありがとう、吉平。――すみません。優しい部下が指摘してくれた通り、「女性ユーザー」というべきところを「男性ユーザー」と言ってしまいました。責任感のある部下を持って助かります。だけどそんな大きな声を出さないように。ちょっと張り切りすぎだな」

 張り詰めた空気が緩んで、笑いが漏れる。必死に叫んだ言葉は、笑いに変えられてしまった。

「恥ずかし」
「そんな小さな言い間違いであんな声を出さなくてもね」
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