恋も仕事も奪われた私ですが、お忍び社長に愛されているようです
 失笑まじりの声が聞こえてきて、勇気がみるみるうちに萎んでいく。やり返されると思っていなかった。頭が真っ白になってその場に突っ立ってしまう。

「ありがとうございます。着席してもらえますか?後ろの方がステージが見えませんよ」

 小久保さんの明るい笑い声が会場にやけに響く。後ろの席から咳払いが聞こえて笑いが広がっていく。
 ――突然ステージの電気が消えた。

「えーすみません。電気がつかなくなってしまったみたいですね。…時間もないので発表を続けてもらえますか。お、スポットライトは使えるみたいですね」

 舞台袖からのんびりとした低い声がする。――美山さんの声だ。

「なんだって。困りますよ、資料がないと皆さんに伝えられませんから」

 スポットライトを当てられた岡島さんの余裕な表情が崩れ、怪訝な顔に変わる。
 
「伝えられます!」

 私はもう一度声を張り上げた。さっき予想以上に大声を出してしまったから少し喉がかすれている。だけど気にしない。変な奴だと思われてもいい。私は人をかきわけて通路に出ると、ステージに向かっていく。

「その企画、間違っています! この企画の一番大切な部分が抜けていますから!」

 スポットライトが私を向く。眩しいライトで前が見づらい。だけど私はステージに歩んでいった。
 舞台袖にはやっぱり美山さんがいて、私にマイクを渡してくれた。その表情が私に勇気をくれる。

「――この企画は私が考えたものです。ですから資料がなくても私なら説明ができます」
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