恋も仕事も奪われた私ですが、お忍び社長に愛されているようです
「ここに本日最も投票の多かった者の名前がある。企画力、プレゼン力、共に優れた者を投票してもらった。そして本日発表してくれた参加者は皆、第一回目となるこのコンペを恐れずに挑戦してくれた。そういう人に新しい部署を任せたい」

 美山さんは封を丁寧に切ると、中から出された紙を取り出した。

「社員投票賞は――吉平なずな」
「……っ!」

 大きな歓声と拍手が沸き上がる。せっかくおまじないの化粧をしてもらったのに、涙が溢れる。だけど小さな魔法がとけても、私はここにいる。私を認めてもらえたんだ。

「二人にはこれからのダイスエンジンの大きな柱を任せた。そしてもう一つ。大切な話がある」
 美山さんは舞台袖に目配せを送ると、スクリーンに写真がうつしだされた。その写真は既に懐かしさすら感じるジャージ姿の美山さんだ。

「この男に見覚えはあるか?」
 会場に再度ざわめきが訪れる。「うちの部に半年前にいた人だよね」「一年前にはうちにいたかも」そんな声が聞き取れる。

「今まで皆の前に姿を出さずすまなかった。全ての社員に目が届かなくなり正当な評価ができなくなってきた。だから各部署に入らせてもらっていた」

 深山社長はほんの少しいたずらな表情を見せた。

「実際に私がこの目で見て評価をし直した。この後、各部署に通達を行う。正当な評価を受け取ってくれ。――そして誰かの功績を自分の物にした者、パワハラやセクハラ、怠慢な者。そちらも厳しく評価させてもらった」

 会場のざわめきがますます大きくなる。皆自分の言動を思い返しているのだろう。隣の男性は「終わりだ」と呟いた。
 壇上にいる、あの人は誰なのだろう。私が好きな美山さんは? 動揺が広がる会場で私は一人そんなことを考えていた。
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