恋も仕事も奪われた私ですが、お忍び社長に愛されているようです
「今日からうちの部署に入ることになった美山(みやま)さんだ。元々はゲーム事業部にいたプログラマーだ」

 朝のミーティングで、PR事業部長が男性を紹介した。

 「美山大吾、三十二歳。プログラマー。よろしく」

 低い声でぶっきらぼうにそれだけ発した彼は、部のメンバーをちらりと見るだけだ。多分見た……と思う。断定できないのは彼の口元しか見えないからだ。長い黒髪は鼻の下まで隠れていて、大きな眼鏡をかけていた。髪の毛に遮られた薄いブルーのサングラスの奥にある瞳から感情は読み取れない。
 すらりと身長は高いが酷い猫背で、服は毛玉のついたぶかぶかのジャージ姿。
 内勤の男性の中には見た目に無頓着な人も多いから、彼が特別珍しいわけではない。だけど清潔感のない見た目に、見るからに顔をしかめた人もいた。

 簡単に紹介を終え、朝のミーティングが終わると
「A社の担当は誰だ?」
 初対面の人たちの前とは思えない口調で彼は周りを見渡す。
 A社の担当は私と小久保さんだ。正確にいえば私が企画を考えて、その後の営業進行は全て小久保さんに取られてしまった。隣にいる小久保さんを見ると彼女は小さく首を振る。どうやら彼と話す気はなさそうだ。

「A社の担当をしている吉平です」 
「PRサイトを作るから企画書を見せてもらえるか」

 私は自分の席まで誘導し、パソコンを開くと隣の椅子に座ってもらった。
 プログラマーはPRサイトのページを制作したり、イベントで必要になるシステムなどを開発してくれる重要な仕事だ。A社ではサイトを作る予定になっていたから、企画書を基に話を進めていく。
 彼は口数は少ないし愛想はとてもいいとはいえなかったが、詳しく説明せずともすぐに理解してくれ、話はどんどん進んだ。
 この人かなり仕事がしやすいな……と感動していると
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