処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
「そうよね。たいていの貴族令嬢は二十歳までに結婚しちゃうもんなぁ。テンバートン侯爵令嬢は十八歳なんだっけ。家柄も年齢も……なんなら容姿だって完璧なのになぁ」

 美しく着飾ったフェリシアのことを思い出す。自分に自信があるのだろう、常に堂々としていた。確かに傲慢なところはあるが、的確に自身のセールスポイントを打ち出したところなどを考えれば頭はいい。

(王妃には向いているんじゃないかしら……)
「彼女は性格が苦手だ」

 突然、後ろから声がして、アメリは慌てて宙に浮いていたパペットを掴む。

「ル、ルーク様?」
「言いつけどおりには休まないだろうなと思って、見に来たら、これだ」
「す、すみません」

 アメリは笑ってごまかしながら、パペットを胸に抱き締める。驚きすぎて心音が激しい。

(み、見られてないよね?)

 おそるおそるルークの表情をうかがうと、彼は不審そうにパペットを見ている。

「今、そのパペット、動いていただろう」
「まさか! ひとり遊びですよ、ほら」

 パペットを手にはめ、ごまかす。その間に、フローはパペットを離れてアメリの肩の上に乗った。すると、ルークの視線はそれを追うように動くではないか。

(……見えてる?)

 血が下がっていくような感覚があった。ルークはアメリのその表情に、納得したように頷いた。

「以前から、そのパペットの腹のあたりに光が見えることがあった。今も見える、お前の肩に乗っている……そうだな?」
「……っ」

 アメリは耳を疑った。フローを認識できるのは、自分だけだと思っていたのに。

《アメリ、もうごまかすのは無理じゃないか?》

 フローの声に、アメリもついに観念した。

「……そうです」

 肯定を聞いて、ルークは前のめりになった。ふわりとフローが浮いて、彼に近づく。

「やはり。これはなんだ? 精霊か?」 
「そうです。フロー。……フローライトの精霊です」

 ルークの顔がぱっと晴れる。そして、一度コホンと咳払いすると、小声でささやく。

「このパペットは母親の形見だと言ったな? じゃあもしかして……」
「……私の母は、ローズマリー。失踪した巫女姫です」

 ついにばらしてしまった。それはつまり、アメリが前王朝の生き残りだということも知られてしまったということだ。
< 100 / 161 >

この作品をシェア

pagetop