処刑回避したい生き残り聖女、侍女としてひっそり生きるはずが最恐王の溺愛が始まりました
(あれ待って、これは逃げるチャンスでは?)

 その隙を見て、アメリは逃げ出そうと立ち上がった──が、足はまだ本調子を取り戻してはいなかった。よろけて、そのまま転びそうになる。

「危ないっ」

 次の瞬間、アメリはルークに抱きこまれていた。そのまま、ルークが体を反転させ、アメリをかばうようにして、背中から転がる。
 アメリに伝わった衝撃は、ルークによってずいぶん緩和されたものだけだ。

「すみません。ルーク様、大丈夫ですかっ」

 すぐさま起き上がって、彼の無事を確認しようとした。すると、右手首を掴まれて引っ張られたかと思うと、背中に手を回されて体を拘束される。

「きゃあっ」
「……なぜ逃げる。お前を殺すつもりなんかないって言っているだろう」

 じたばた暴れても、離してもらえない。結果的に最初よりもずっと密着する羽目になってしまった。

「……前から、お前が巫女姫なんじゃないかと思っていた」
「は?」
(なにそれ。一体いつから気づかれていたの?)

 それにアメリは今、巫女姫の娘だと言っただけで、自分が巫女姫だとは言っていない。

「と、とりあえず離してください!」
「お前が逃げないならな」
「逃げませんから」

 ルークは両手を開いて解放し、アメリをソファに座らせたが、警戒しているのか隣に座って、逃げられないように圧をかけてくる。

「くそっ、なにから聞けばいいか……チッ」

 ルークが舌打ちするのと同時に、重ための足音が聞こえてきた。

「タイミングの悪い。……アメリ、ちょっと黙ってろ」

 ルークが、アメリに覆いかぶさるような仕草をする。触れてはいないが、ものすごく距離が近い。声を出そうとしたら「しっ」と耳元でささやかれて、声を飲み込んだ。

「ルーク様、忘れ物を取るのにいつまで……わっ」

 ジャイルズ伯爵の声だ。ルークの影になっていて、姿まではアメリには見えない。ジャイルズ伯爵から見れば、アメリがルークに押し倒されているようにも見えるだろう。

「ロバート。邪魔だ。しばらく立ち入り禁止だ」

 低い声色でルークが言うと、「し、失礼しました!」と慌ててジャイルズ伯爵が行ってしまう。

(いやいや、そこは行かないで。助けようよ)

 足音が遠ざかると、ルークはアメリを解放してくれた。
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