『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
誤算
私はバスケットを手に、神殿の地下へと続く階段を下りていた。
約束のお茶は水筒に入れて、サンドウィッチと一緒に持ってきた。『お茶をする』というよりピクニックだけれど、そこは許して欲しい。
緩やかに螺旋を描く階段を一段一段下りていく。ルシスに喚ばれて最初に上った階段だ。三分の二を下りた辺りで、『交信の間』から漏れ出た光が見えた。
(あそこで目が覚めたらナツメに脈を測られていたんだっけ)
あのときにはそれどころでなくて気付かなかったが、頼りない光源が照らす壁には一面に何かの模様が彫られていた。あるいは模様ではなく、魔法的な記述なのかもしれない。やはりルシスはファンタジーな世界だ。
何とはなしに空いている方の手で壁を撫でながら、私はさらに階段を下りていった。
(まだ暫く鏡の方の魔法陣は、描き終わらないはずよね)
『彩生世界』で、ナツメは二箇所にそれぞれ種類の違う魔法陣を描いていた。
一つは床へ、異世界と繋がるもの。もう一つはルシスの神体である大鏡へ、神域へと繋がる扉となるもの。当初ひび割れていた大鏡は、王都のマナの光事件の功罪によって今は修復されているはずだ。
神域へ行くだけなら大鏡の方だけで済むが、世界規模のマナを巡らすにはどちらの魔法陣も必要になる。二つで一つの魔法が完成する仕様であるから。
本編ではどのルートでも、ナツメは先に床の方の魔法陣を描いていた。
ナツメルートでは、そちらの魔法陣が予め『帰還』に設定されていたが、それ以外のルートでは、その場で美生がナツメにどちらにするか伝える場面がある。
(ナツメルートだとその『帰還』部分の記述を、ルーセンが消すのよね)
自分で描けはしないものの、ナツメに魔法陣を教えたのはルーセンだ。記述の意味は読み取れるのだろう。
(私は、さっぱりわからないけど)
『交信の間』の入口、真っ先に目に入った淡い赤色の光を放つ、床に描かれた魔法陣。それを前に、私は思わず足を止めて魅入った。
コンパスで描かれたように正確な三重の正円。その円の間に、美しい文字が整然と等間隔に並ぶ。そのどれもが違う文字のはずなのに、あまりにも整ったそれは、綺麗な左右対称に見えた。
(確かにこれは、誰にでもは描けないでしょうよ)
ナツメはルーセンが大雑把だからだと言っていたが、実物を前にすると「ナツメが変態レベルで細かい」と反論していたルーセンの言い分の方がもっともだと思える。
私は苦笑して、今度こそ『交信の間』へと足を踏み入れた。
約束のお茶は水筒に入れて、サンドウィッチと一緒に持ってきた。『お茶をする』というよりピクニックだけれど、そこは許して欲しい。
緩やかに螺旋を描く階段を一段一段下りていく。ルシスに喚ばれて最初に上った階段だ。三分の二を下りた辺りで、『交信の間』から漏れ出た光が見えた。
(あそこで目が覚めたらナツメに脈を測られていたんだっけ)
あのときにはそれどころでなくて気付かなかったが、頼りない光源が照らす壁には一面に何かの模様が彫られていた。あるいは模様ではなく、魔法的な記述なのかもしれない。やはりルシスはファンタジーな世界だ。
何とはなしに空いている方の手で壁を撫でながら、私はさらに階段を下りていった。
(まだ暫く鏡の方の魔法陣は、描き終わらないはずよね)
『彩生世界』で、ナツメは二箇所にそれぞれ種類の違う魔法陣を描いていた。
一つは床へ、異世界と繋がるもの。もう一つはルシスの神体である大鏡へ、神域へと繋がる扉となるもの。当初ひび割れていた大鏡は、王都のマナの光事件の功罪によって今は修復されているはずだ。
神域へ行くだけなら大鏡の方だけで済むが、世界規模のマナを巡らすにはどちらの魔法陣も必要になる。二つで一つの魔法が完成する仕様であるから。
本編ではどのルートでも、ナツメは先に床の方の魔法陣を描いていた。
ナツメルートでは、そちらの魔法陣が予め『帰還』に設定されていたが、それ以外のルートでは、その場で美生がナツメにどちらにするか伝える場面がある。
(ナツメルートだとその『帰還』部分の記述を、ルーセンが消すのよね)
自分で描けはしないものの、ナツメに魔法陣を教えたのはルーセンだ。記述の意味は読み取れるのだろう。
(私は、さっぱりわからないけど)
『交信の間』の入口、真っ先に目に入った淡い赤色の光を放つ、床に描かれた魔法陣。それを前に、私は思わず足を止めて魅入った。
コンパスで描かれたように正確な三重の正円。その円の間に、美しい文字が整然と等間隔に並ぶ。そのどれもが違う文字のはずなのに、あまりにも整ったそれは、綺麗な左右対称に見えた。
(確かにこれは、誰にでもは描けないでしょうよ)
ナツメはルーセンが大雑把だからだと言っていたが、実物を前にすると「ナツメが変態レベルで細かい」と反論していたルーセンの言い分の方がもっともだと思える。
私は苦笑して、今度こそ『交信の間』へと足を踏み入れた。