『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
世界は人が綾なす -ナツメ視点-
「あ、ナツメさんとお話中だったんですね。お二人ともごめんなさい」
俺が前庭でカサハさんと話していたところ、ミウさんが駆け寄ってきた。言い方からして、用があったのは彼の方らしい。
「いえ、カサハさんに話していたのは貴女とアヤコさんへの伝言でしたので、丁度良かったです」
「伝言ですか?」
ミウさんが言いながら、俺の手元を見る。それなりに大きな鞄を提げていたので、気になったのだろう。
「俺はこの後、回復魔法を希望している患者の家を回る予定なんです」
「結構大きな荷物ですね」
「今は中身は空ですけどね」
「?」
鞄について事実だけを述べれば、ミウさんが首を傾げる。その隣でカサハさんが複雑な表情をしていて、二人の反応の違いに俺は口許だけで笑った。
「俺のことは置いといて伝言ですが、滞在中は、一階西側の衣装部屋にある服を自由に着て下さい。数日いることになるでしょうから、家の者に頼んで何着か用意させました」
「ありがとうございます。彩子さんにも伝えておきますね」
「それから、ついでなので言っておきます。明日の王城への訪問は、ミウさんがこの世界に喚ばれた際に着ていた、異世界の服を着用して下さい。ルーセンさんから聞いた神託の情報では、「聖女は異世界人」とあったようなので、その方が効果的と思われます」
「わかりました」
「ナツメ。何故、ミウたちのサイズを知っている?」
ミウさんが頷いた直後、カサハさんに怪訝な顔で問われる。
「既製品なら大体のサイズがわかればいいので、今着ている服の上からでも見ればわかります。俺が正確なサイズを知っているのは、アヤコさんだけです」
そう答えれば、聞いてきたカサハさんではなくミウさんが「ひゃぁ……」と反応を示す。ほんのり頬を染めた彼女の頭には、きっと俺の台詞に恋人同士の触れ合いを思い描いたに違いない。実際は、センシルカの丘でアヤコさんを抱き締めたときに測っていたわけだが。
(ああこれは、利用できますね)
ふと思い付き、俺はミウさんの勘違いが助長するようにわざと妖しげに微笑んでみせた。
「そういえばお前は、アヤコと交際しているという話だったな。ルシス再生計画が終わったらここに移り住むのか?」
さらに顔を赤らめたミウさんの様子に、カサハさんもまた俺の思惑に掛かった。
現時点でアヤコさんは俺との恋人発言について、でまかせだと思っている。それで済ますつもりなど毛頭ない俺としては、ここで外堀を埋めておくに限る。
「いえ、住むとしたらイスミナですね。イスタ邸からも近いですし、セネリアの事件直前まで勝手に住んでいた俺の実家もあるので」
「勝手にとは?」
「俺は事情があって神官の養父に預けられていたんですが、彼とは不仲で。彼が俺を連れてイスタ邸を訪れた機会に、イスミナの実家に戻ったんですよ。俺はそのとき初めて母が長期間行方不明であることを知りましたが、彼は既に知っていたのか放っておかれました。王都に帰るときにでも俺を連れ戻すつもりだったんでしょう。結局、事件直前まで一人で実家に住んでいました」
「……待っていたのか」
「五歳の子供の考えることですから。今はもう、さすがに生きているとは思っていません」
「……そうか」
何気なく聞いたのだろう。気まずそうにカサハさんが目を伏せる。俺にとっては昔の話過ぎて、今更どう思うということもないのだが。
「しかし、住居がどうという前に、アヤコさんからルシスに残るという言葉を引き出すのが、先ですね」
重くなった空気を払拭するために、俺は軽い口調で言ってみせた。
「それを聞く前に交際を始めたのか?」
「何か問題ありますか?」
「無いわけ無いだろう」
案の定、カサハさんの凝り固まった常識を刺激したようで、普段と変わらぬ返しを彼がしてくる。
交際後の常識は疑っても交際については事実として疑っていない彼に、俺は思わず笑いそうになるのを堪えた。
俺が前庭でカサハさんと話していたところ、ミウさんが駆け寄ってきた。言い方からして、用があったのは彼の方らしい。
「いえ、カサハさんに話していたのは貴女とアヤコさんへの伝言でしたので、丁度良かったです」
「伝言ですか?」
ミウさんが言いながら、俺の手元を見る。それなりに大きな鞄を提げていたので、気になったのだろう。
「俺はこの後、回復魔法を希望している患者の家を回る予定なんです」
「結構大きな荷物ですね」
「今は中身は空ですけどね」
「?」
鞄について事実だけを述べれば、ミウさんが首を傾げる。その隣でカサハさんが複雑な表情をしていて、二人の反応の違いに俺は口許だけで笑った。
「俺のことは置いといて伝言ですが、滞在中は、一階西側の衣装部屋にある服を自由に着て下さい。数日いることになるでしょうから、家の者に頼んで何着か用意させました」
「ありがとうございます。彩子さんにも伝えておきますね」
「それから、ついでなので言っておきます。明日の王城への訪問は、ミウさんがこの世界に喚ばれた際に着ていた、異世界の服を着用して下さい。ルーセンさんから聞いた神託の情報では、「聖女は異世界人」とあったようなので、その方が効果的と思われます」
「わかりました」
「ナツメ。何故、ミウたちのサイズを知っている?」
ミウさんが頷いた直後、カサハさんに怪訝な顔で問われる。
「既製品なら大体のサイズがわかればいいので、今着ている服の上からでも見ればわかります。俺が正確なサイズを知っているのは、アヤコさんだけです」
そう答えれば、聞いてきたカサハさんではなくミウさんが「ひゃぁ……」と反応を示す。ほんのり頬を染めた彼女の頭には、きっと俺の台詞に恋人同士の触れ合いを思い描いたに違いない。実際は、センシルカの丘でアヤコさんを抱き締めたときに測っていたわけだが。
(ああこれは、利用できますね)
ふと思い付き、俺はミウさんの勘違いが助長するようにわざと妖しげに微笑んでみせた。
「そういえばお前は、アヤコと交際しているという話だったな。ルシス再生計画が終わったらここに移り住むのか?」
さらに顔を赤らめたミウさんの様子に、カサハさんもまた俺の思惑に掛かった。
現時点でアヤコさんは俺との恋人発言について、でまかせだと思っている。それで済ますつもりなど毛頭ない俺としては、ここで外堀を埋めておくに限る。
「いえ、住むとしたらイスミナですね。イスタ邸からも近いですし、セネリアの事件直前まで勝手に住んでいた俺の実家もあるので」
「勝手にとは?」
「俺は事情があって神官の養父に預けられていたんですが、彼とは不仲で。彼が俺を連れてイスタ邸を訪れた機会に、イスミナの実家に戻ったんですよ。俺はそのとき初めて母が長期間行方不明であることを知りましたが、彼は既に知っていたのか放っておかれました。王都に帰るときにでも俺を連れ戻すつもりだったんでしょう。結局、事件直前まで一人で実家に住んでいました」
「……待っていたのか」
「五歳の子供の考えることですから。今はもう、さすがに生きているとは思っていません」
「……そうか」
何気なく聞いたのだろう。気まずそうにカサハさんが目を伏せる。俺にとっては昔の話過ぎて、今更どう思うということもないのだが。
「しかし、住居がどうという前に、アヤコさんからルシスに残るという言葉を引き出すのが、先ですね」
重くなった空気を払拭するために、俺は軽い口調で言ってみせた。
「それを聞く前に交際を始めたのか?」
「何か問題ありますか?」
「無いわけ無いだろう」
案の定、カサハさんの凝り固まった常識を刺激したようで、普段と変わらぬ返しを彼がしてくる。
交際後の常識は疑っても交際については事実として疑っていない彼に、俺は思わず笑いそうになるのを堪えた。