『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~

セネリアの編み籠

 王都の西門を潜り街の外へと出る。私たちは先頭を行くルーセンの後を付いて行っていた。
 王都西は崖が多い。見渡す限りの荒野といった感じなので、脆くなった大地が年々崩れ落ちて形成された土地といった印象か。

「ルーセン、本当に問題ないんだろうな?」
「カサハ、もうそれ四回目だから」

 呆れ交じりに返すルーセンに、正直、私の方も呆れてカサハを見た。
 数刻前、食堂に入るなりカサハはルーセンに問い質した。玉に触れた際に、美生自身のマナがルシスに流れないのかと。それについて、ルーセンは大丈夫だと、キッパリ否定した。

 『ミウは生きているからね』

 セネリアのマナがルシスに還るのは、本来は還るべきものが無理矢理留まっているのを正した結果に過ぎない。だから還らないことが自然である美生のマナは平気なのだと、ルーセンは説明した。それを受けて一度は安心した様子を見せていたカサハだったのだが……結局、先程からずっとこんな調子である。

(まあ……タイミングが悪かったって奴よね)

 今、問題の崖付近に来ているのは、ルーセンが調べたいと言ったからだ。それも、美生が倒れたことを伝える前に、彼は軽い口調で提案してしまった。ルーセンに悪気がなかったことはカサハもわかってはいるだろうが、カサハの神経を逆なでしたのは想像に難くない。そんな精神状態で説明を受けたのでは、まあ疑心暗鬼にもなるというものだ。

(その後、ルーセンがルシス再生計画の出処について口籠もったのも、いただけなかったかもね)

 でもそれについても、ルーセンもおいそれとは言えないだろう。その辺りは例の、彼の隠しておきたい秘密に関係してくるわけだし。
 私はルーセンに目を遣り、心の中だけで「よしよし」と彼を慰めた。

「あの辺りなんだけど。カサハ、やっぱり僕が調べたかった場所と同じ?」
「ああ」

 立ち止まって崖の一角を指差したルーセンに、カサハは頷いた。

(あ、ここから公式)

 聞き覚えのある遣り取りに、私は周りを見回した。この辺りはまだ、(まば)らに草が見られる。

「カサハとミウは何でまたここに?」

 ルーセンの立つ位置は、街から延びる路の終わり。

「先日、王城でミウが外を見た際に、この辺りの景色に違和感を覚えたと言っていた」

 カサハは北へ数歩行って、ルーセンよりも崖の近くへ移動。美生はカサハの傍へ。彼より少し南で立ち止まる。
 私の前方に三人が。ナツメだけは私の後方、やや離れた路の上に立っていた。

(概ね一致するけど、初期配置と若干違うような……)

 一連の会話の最後に、この場所で戦闘が発生する。『予言』をやるには、その時点で自分の知る初期配置になっている必要がある。私の記憶では、ナツメはそのままで、他の皆がもう少し彼の方へ寄っていた。会話中ずっと棒立ちということは無いだろうから、その誤差なのか。

「ミウが倒れた場所で、ナツメの見立てでは境界線、と。うん、だろうね。僕もここへ来て確信した。そこには、一見見えない境界線がある」
「一見?」

 含みのあるルーセンの言い方に、カサハは彼に問うように復誦した。
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