『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
「カサハさんのときにも思いましたが、体内のマナが吸い取られる境界線はまるで巨大な魔獣のようです。――いや、あるいは境界線が本体で魔獣にマナを回収させているんでしょうか」
「だとしたら、境界線がマナを集める理由は何だ?」
「それを判断するには、境界線も魔獣も情報が少な過ぎます。ひとまずは、ミウさんが気を失う直前までのカサハさんたちの状況を教えて下さい」
「――ミウと西門周辺を歩いていたときに、地震があった。それで近くで崖崩れが起きたんだが、周りが崩れているのに一部まったく変化の無い箇所があったんだ。気になった俺は、一人で崖下まで降りた」
カサハさんが記憶を辿るようにして、ゆっくりと話す。
「降りた俺をミウが崖の上から追ってきて、それで問題の崖の上にミウが立った直後に倒れた。腹立たしいが、俺にはこれ以上のことはわからない」
「西門付近の崖、ですか。あの辺りは、それこそセネリアが生まれるよりも前から、立ち入り禁止区域だったはずです。今回の調査でも遠目には境界線が無いか見ていますが、確かに近くまでは行ってませんでしたね」
「……ここは?」
「ミウ! 気付いたか!」
か細い声が聞こえたと同時に、カサハさんがミウさんに目を向ける。
「気分はどうですか? ここは俺の邸です。ミウさんは突然気を失ったようで、カサハさんがここまで運びました」
「あ! そうです。ある場所に立ったときに、急に気が遠くなったというか。上手く表現できないんですけど、身体の中から外へ何かが引っ張られた……そんな感覚があって」
「そうですか。やはりマナが体外に流出していたようですね。今はどうですか? 俺の保護魔法が効いているはずですが」
ミウさんに具合を尋ねれば、彼女は自分の両手を胸の前で広げては閉じてを数回繰り返した。おそらく倒れる直前に、思うように身体が動かない状態を体験したのだろう。
「はい、何ともないです。ナツメさんの魔法っていつもすごいですね」
「いえ、皮肉な話ですが、セネリアがやった境界線の応用です。ルシスとのマナの遣り取りを一時的に遮断しました。折を見て解除します。遮断したままでは、セネリアの玉をルシスに還せませんし、何より人体に影響があるので」
「ミウを通して玉をルシスに還す……そうか、そういう話だったな……」
カサハさんが呟きながら考え込む素振りを見せ、それから彼は俺を見上げてきた。
「今回の件を見ると、それは危険とは言えないか? セネリアの玉を還すということは、ようはミウが取り込んだセネリアのマナをルシスに流す行為だろう? ミウからルシスへの流れができた結果、ミウ自身のマナまで流出しないとは限らない」
「ルーセンさんは、計画のためなら手段を選ばないというようなタイプではないとは思いますが……しかし、実際に行ってみて初めてわかったこともあったかもしれませんね」
「そういえば……どうしてルーセンさんは、ルシスを再生する方法を知っていたんでしょうか?」
ふと疑問に思った、そんなふうにミウさんが口にする。そしてその一言に、俺も言われてみればと同じ疑問を抱いた。
俺に聖女を召喚して欲しいと頼みにきた彼は、王都でルシスを再生する方法を学んだと言っていた。しかし、俺は計画の詳細は聞いても、彼がどうやってあるいは誰から学んだのかについては尋ねたことはなかった。
「そうですね。今回ミウさんに起こったことも含めて、一度、ルーセンさんと話してみましょう」
「そのルーセンはどうしている?」
「今日は昼まで眠ると言っていました。昼食には出て来るということだったので、食堂で待ちましょう。案外、この時間なら彼の方が先にいるかもしれません」
「そうか」
カサハさんが俺にそう返し、ソファから立ち上がった拍子に少しよろめいたミウさんの背を軽く支える。
俺は二人が歩く後ろを行き、部屋の外に出たところで開け放たれたままだった扉を締めた。
「だとしたら、境界線がマナを集める理由は何だ?」
「それを判断するには、境界線も魔獣も情報が少な過ぎます。ひとまずは、ミウさんが気を失う直前までのカサハさんたちの状況を教えて下さい」
「――ミウと西門周辺を歩いていたときに、地震があった。それで近くで崖崩れが起きたんだが、周りが崩れているのに一部まったく変化の無い箇所があったんだ。気になった俺は、一人で崖下まで降りた」
カサハさんが記憶を辿るようにして、ゆっくりと話す。
「降りた俺をミウが崖の上から追ってきて、それで問題の崖の上にミウが立った直後に倒れた。腹立たしいが、俺にはこれ以上のことはわからない」
「西門付近の崖、ですか。あの辺りは、それこそセネリアが生まれるよりも前から、立ち入り禁止区域だったはずです。今回の調査でも遠目には境界線が無いか見ていますが、確かに近くまでは行ってませんでしたね」
「……ここは?」
「ミウ! 気付いたか!」
か細い声が聞こえたと同時に、カサハさんがミウさんに目を向ける。
「気分はどうですか? ここは俺の邸です。ミウさんは突然気を失ったようで、カサハさんがここまで運びました」
「あ! そうです。ある場所に立ったときに、急に気が遠くなったというか。上手く表現できないんですけど、身体の中から外へ何かが引っ張られた……そんな感覚があって」
「そうですか。やはりマナが体外に流出していたようですね。今はどうですか? 俺の保護魔法が効いているはずですが」
ミウさんに具合を尋ねれば、彼女は自分の両手を胸の前で広げては閉じてを数回繰り返した。おそらく倒れる直前に、思うように身体が動かない状態を体験したのだろう。
「はい、何ともないです。ナツメさんの魔法っていつもすごいですね」
「いえ、皮肉な話ですが、セネリアがやった境界線の応用です。ルシスとのマナの遣り取りを一時的に遮断しました。折を見て解除します。遮断したままでは、セネリアの玉をルシスに還せませんし、何より人体に影響があるので」
「ミウを通して玉をルシスに還す……そうか、そういう話だったな……」
カサハさんが呟きながら考え込む素振りを見せ、それから彼は俺を見上げてきた。
「今回の件を見ると、それは危険とは言えないか? セネリアの玉を還すということは、ようはミウが取り込んだセネリアのマナをルシスに流す行為だろう? ミウからルシスへの流れができた結果、ミウ自身のマナまで流出しないとは限らない」
「ルーセンさんは、計画のためなら手段を選ばないというようなタイプではないとは思いますが……しかし、実際に行ってみて初めてわかったこともあったかもしれませんね」
「そういえば……どうしてルーセンさんは、ルシスを再生する方法を知っていたんでしょうか?」
ふと疑問に思った、そんなふうにミウさんが口にする。そしてその一言に、俺も言われてみればと同じ疑問を抱いた。
俺に聖女を召喚して欲しいと頼みにきた彼は、王都でルシスを再生する方法を学んだと言っていた。しかし、俺は計画の詳細は聞いても、彼がどうやってあるいは誰から学んだのかについては尋ねたことはなかった。
「そうですね。今回ミウさんに起こったことも含めて、一度、ルーセンさんと話してみましょう」
「そのルーセンはどうしている?」
「今日は昼まで眠ると言っていました。昼食には出て来るということだったので、食堂で待ちましょう。案外、この時間なら彼の方が先にいるかもしれません」
「そうか」
カサハさんが俺にそう返し、ソファから立ち上がった拍子に少しよろめいたミウさんの背を軽く支える。
俺は二人が歩く後ろを行き、部屋の外に出たところで開け放たれたままだった扉を締めた。