『彩生世界』の聖女じゃないほう ~異世界召喚されました。こうなったらやってみせます完全攻略~
異なる世界の貴方が誰より
王都を出て、最寄りの転送ポータルまでの道を私たちは歩いていた。
最寄りのとはいっても来たとき同様、山を下って平原を行かないと着かない。よって数時間を要する。
その数時間をまたカサハと気まずいまま歩きたくはなかったのだろう、今回美生は私の隣を歩いていた。皆も気を遣ってか、私たち二人とは少し離れて歩いてくれている。
そのことが彼女に今が機会だと思わせたのか、ずっと黙って歩いていた美生の口から「あの……」という小さな声が零れた。
見るからに思い悩んだ顔のことには触れないで、私は「どうしたの?」と美生に返す。
「あの……彩子さん、今朝……ナツメさんの部屋から出て来ましたよね?」
「へ?」
私は完全に虚を衝かれることになり、素っ頓狂な声を上げてしまった。
絶対にカサハとのことを相談されると思っていた。だからそんな反応になってしまったのは、仕方がないと思う。ゲームでの美生はこの道中、カサハのことで頭が一杯だったのだから。
(うーん。でもここまでずっと、考え込んでいたわよね)
やっぱりカサハのことは気に掛けていたと思う。私のこともそれとは別に気になったということか。
「ああ……うん、そうね」
朝までナツメの部屋にいたのは事実なのでそう答えれば、美生がボンッと擬音が付きそうなほどに顔を赤らめる。まあ普通にそう誤解をするでしょうね。美生は私たちが恋人同士とも思っている。美生はお年頃なわけだし、そりゃあこれはこれとして興味が湧くのもわかる。
そう思ったのだが、美生の反応はまた私の予想とは違っていた。
「羨ましいなって……思いました。だって私は……」
彼女の寂しげな口調に、単なる興味に留まらない言葉なのだと瞬時にわかる。
切なげに目を伏せた彼女の言葉の続きを、私は静かに待った。
「――レテの村でカサハさんは……私にセネリアの悲しい記憶を忘れるのなら、私にとってルシスの記憶を失うのはいいことだと言いました。それって、私が元の世界に帰ること前提ですよね?」
美生が泣き笑いのような顔をする。けれどそんな自嘲の笑みでさえ続かないというように、彼女の表情は元の切ないものへと戻った。
「私、カサハさんに『元の世界より俺を選んで欲しい』って、言われたかった……」
言って、けれどすぐに美生が頭を振る。
「いいえ、本当はわかっているんです。だって、私はセネリアだから――彼の大切な時間を、友人を奪った魔女だからっ」
美生の切ない表情は、もはや悲痛なものへと変わってしまって。
「――カサハがそれを直接言ってきたの?」
だから私はつい、お節介を焼いてしまった。
私の問いに、美生が「え?」とようやっと私の顔を見上げる。
「セネリアだから帰れと、カサハはそう美生に言ったわけじゃないでしょう?」
「それは……でも――」
美生の心はもう決まっている。だからこれはただ、彼女の悩む時間を短くするだけのもの。
「だったら、ちゃんと彼の心を聞かないと。もし本当に冷たく帰れと言われても、貴女はそのことすら忘れてしまうのよ」
「――っ」
美生が目を見開いて、私を見る。
そしてその目が、強い光を宿したそれに変わる。
「私……私、カサハさんに私の気持ち、伝えます」
「うん、その意気よ」
センシルカの街が見えてくる。街の転送ポータルから飛べば、イスタ邸はすぐそこだ。
イスタ邸に戻った美生は、カサハに告白するだろう。そして美生はルシスに残ることになる――元の世界の記憶を手放す覚悟をして。
(ここにいる貴女は、どちらも手放さないで欲しいから)
どうカサハに想いを伝えるかを考え始めたのだろう。また思案顔になった美生に私は、私が思うベストエンドを思い描いた。
最寄りのとはいっても来たとき同様、山を下って平原を行かないと着かない。よって数時間を要する。
その数時間をまたカサハと気まずいまま歩きたくはなかったのだろう、今回美生は私の隣を歩いていた。皆も気を遣ってか、私たち二人とは少し離れて歩いてくれている。
そのことが彼女に今が機会だと思わせたのか、ずっと黙って歩いていた美生の口から「あの……」という小さな声が零れた。
見るからに思い悩んだ顔のことには触れないで、私は「どうしたの?」と美生に返す。
「あの……彩子さん、今朝……ナツメさんの部屋から出て来ましたよね?」
「へ?」
私は完全に虚を衝かれることになり、素っ頓狂な声を上げてしまった。
絶対にカサハとのことを相談されると思っていた。だからそんな反応になってしまったのは、仕方がないと思う。ゲームでの美生はこの道中、カサハのことで頭が一杯だったのだから。
(うーん。でもここまでずっと、考え込んでいたわよね)
やっぱりカサハのことは気に掛けていたと思う。私のこともそれとは別に気になったということか。
「ああ……うん、そうね」
朝までナツメの部屋にいたのは事実なのでそう答えれば、美生がボンッと擬音が付きそうなほどに顔を赤らめる。まあ普通にそう誤解をするでしょうね。美生は私たちが恋人同士とも思っている。美生はお年頃なわけだし、そりゃあこれはこれとして興味が湧くのもわかる。
そう思ったのだが、美生の反応はまた私の予想とは違っていた。
「羨ましいなって……思いました。だって私は……」
彼女の寂しげな口調に、単なる興味に留まらない言葉なのだと瞬時にわかる。
切なげに目を伏せた彼女の言葉の続きを、私は静かに待った。
「――レテの村でカサハさんは……私にセネリアの悲しい記憶を忘れるのなら、私にとってルシスの記憶を失うのはいいことだと言いました。それって、私が元の世界に帰ること前提ですよね?」
美生が泣き笑いのような顔をする。けれどそんな自嘲の笑みでさえ続かないというように、彼女の表情は元の切ないものへと戻った。
「私、カサハさんに『元の世界より俺を選んで欲しい』って、言われたかった……」
言って、けれどすぐに美生が頭を振る。
「いいえ、本当はわかっているんです。だって、私はセネリアだから――彼の大切な時間を、友人を奪った魔女だからっ」
美生の切ない表情は、もはや悲痛なものへと変わってしまって。
「――カサハがそれを直接言ってきたの?」
だから私はつい、お節介を焼いてしまった。
私の問いに、美生が「え?」とようやっと私の顔を見上げる。
「セネリアだから帰れと、カサハはそう美生に言ったわけじゃないでしょう?」
「それは……でも――」
美生の心はもう決まっている。だからこれはただ、彼女の悩む時間を短くするだけのもの。
「だったら、ちゃんと彼の心を聞かないと。もし本当に冷たく帰れと言われても、貴女はそのことすら忘れてしまうのよ」
「――っ」
美生が目を見開いて、私を見る。
そしてその目が、強い光を宿したそれに変わる。
「私……私、カサハさんに私の気持ち、伝えます」
「うん、その意気よ」
センシルカの街が見えてくる。街の転送ポータルから飛べば、イスタ邸はすぐそこだ。
イスタ邸に戻った美生は、カサハに告白するだろう。そして美生はルシスに残ることになる――元の世界の記憶を手放す覚悟をして。
(ここにいる貴女は、どちらも手放さないで欲しいから)
どうカサハに想いを伝えるかを考え始めたのだろう。また思案顔になった美生に私は、私が思うベストエンドを思い描いた。