帝都の守護鬼は離縁前提の花嫁を求める
(この方は私に興味などないのね。早く儀式が終われば良いとでも思っているのかしら? まったく、ならばはじめから花嫁など求めなければ良いのに!)

 不満は怒りとなり、琴子はもはや感情を抑えることなく朱縁をキッと睨んだ。

(お望み通り、さっさと離縁して差し上げましょう)

「お初にお目にかかります。櫻井琴子と申します。本日は【離縁の儀】を取り行うために参りました」

 棘を含ませた声音で淡々と告げると、琴子は座して礼をする。
 頭を上げると、朱縁はやっとこちらに顔を向けていた。
 その血のような赤い瞳に琴子の姿を映した人ならざる鬼は、そのまま息を呑み目を見開く。
 驚きを表した顔が何かを呟くと、気怠げだった様子が嘘のように俊敏に動いた。

 素早く側へ来た朱縁は、そのまま琴子の右手を掴み驚く彼女をじっと見る。
 紅玉を思わせる瞳に自身の顔が映っていることを確認した琴子は、掴まれた右手がとても熱いと感じた。
 女とは違う硬い手。
 女には持ち得ない力強さ。
 触れたことのない男という存在に、琴子は強い戸惑いを覚える。
 そして何より男が側に在り、触れているというのに怖気が湧き上がるどころか気分が悪くなることもない。
 そのことにとても困惑していた。

「……これだけ妖力を流してもなんともないのか?」
「え?」

 静かに驚く朱縁の言葉に、自分は今何かされていたのだろうかと首を傾げる。
 朱縁の言葉通りであるならば妖力を流されていたのだろうが、よくわからない。
 戸惑い困惑する琴子を朱縁は改めてその目に映す。
 無機質だった紅玉の中に光が差し、煌めき赤が濃く色づいた。
 そして、薄い唇の端を軽く上げ笑みを浮かべた朱縁は、低くよく通る声で琴子に告げる。

「琴子といったな? お前は私の唯一の伴侶だ」
「え?」

 ふわりと柔らかに笑った朱縁の続く言葉に、琴子の頭の中は真っ白になる。

「私はお前と離縁などしない」
「…………え?」
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