帝都の守護鬼は離縁前提の花嫁を求める
「えっ!?」

 整えようとしていた息が一瞬止まる。
 なんとか呼吸はするも、ドキドキと早まる鼓動は治まらなかった。

(ど、どどどどうしてこんな!?)

 ひたすら戸惑う琴子の背を朱縁の大きな手が優しく撫でる。
 何かを溜め込んだような深いため息が降りてくると、朱縁はもう一度「すまない」と口にした。

「【離縁の儀】を終えた場合、琴子が他の男の妻になっていたかもしれないと思うと腸が煮えくり返りそうになったのだ」
「朱縁様……?」

 背にあった手を肩に置き、少し離れた朱縁は悲しげな眼差しで琴子を見下ろす。

「今日共に外出し、分かったことがある。私は唯一の伴侶としてふさわしい相手というだけでなく、琴子という娘に惹かれているのだ」
「え……?」
「くるくると変わる表情が愛おしい。好きなものを語る琴子はキラキラと眩しく、私まで楽しくなってくるのだ」

 目映い星を見るような、憧れを伴った光が赤い目に宿っていた。

「琴子が来てから私の世界は彩り始めた。世界は、こんなにも美しいのだなと思えた。……だから琴子、離縁したいなどと言わないでくれ」

 すがるような懇願。
 切なる想い。
 朱縁の目を見ただけでも伝わってくるその想いに、琴子は身動きが取れなくなる。
 離縁しなければ父が黙っていないだろう。おそらく、桐矢家の方々も。
 だが、目の前の美しい鬼の願いを無碍には出来なかった。
 それに……。

(何故? どうして私は、こんなにもドキドキしているの?)

 朱縁の妖力を長く流し込まれても平気な体を持つ娘――唯一の伴侶。
 それだけではなく、琴子自身に惹かれているという言葉がとても嬉しく感じた。
 琴子自身を求めるその血のような瞳から目が離せない。
 近付いてくるその顔から逃げることは出来なかった。
 気付けば、優しく触れる唇を琴子はただ受け入れていた。
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