帝都の守護鬼は離縁前提の花嫁を求める
 穏やかで、楽しい驚きのある日々。
 朱縁の望む通り離縁しなければ、この生活がずっと続くのだろうか。
 長い時を共に生きなければならないという不安はあれど、存外悪くないのかもしれない、と琴子は思い始めていた。

「本当に、特にこの数十年は目まぐるしいです。黒船来航の折も慌ただしかったですが」
「は?」

 しみじみといった様子の利津に琴子は思わず目を瞬かせる。
 黒船来航といえば六十年以上前の出来事だ。
 その時代をまるで見てきたかのように語る利津に、琴子は思考が追いつかない。
 七十にもなる老人ならば分かるが、利津はどう見ても二十代といったところだろう。少なくとも老女には見えない。

「えっと……失礼かもしれないけれど、利津さんはおいくつなのかしら?」
「え? そうですね、百を超えた辺りから数えるのは止めましたが……百三十くらいだと思います」

 澄ました顔で告げる利津に、琴子はやっと理解する。

「……利津さんは、あやかしなのですね?」
「ええ、妖狐です。朱縁様には百年ほど前からお仕えしておりますね」

 妖狐であるという証拠のように、利津は人差し指を立てるとその上に青い炎――狐火を出現させた。

「申し訳ありません。驚かれましたか?」
「少し……でも逆に納得しました。鬼である朱縁様に、只人が仕えていられるのか疑問もありましたから」

 普段の生活であやかしと関わることなど無いため人だと思い込んでいたが、確かに人ならざる者に人が仕えるには限界があるだろう。
 利津があやかしであることはむしろ理に適っていると思えた。
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