帝都の守護鬼は離縁前提の花嫁を求める
「――御免! 御主人はおられるか!?」

 そのとき、玄関の方から野太い男の声が響く。

「珍しいですね、誰かが訪ねてきたようです」

 不思議そうに立ち上がった利津は琴子に部屋で待つように告げ、玄関へと向かった。

「確かに珍しいこと」

 琴子がこの朱縁の屋敷で世話になってからまだ十日ほどしか経っていないが、その間も誰かが訪ねてくるということはなかった。
 一体どのような客だろう? と思いながらアイロン台などを片していると、玄関の方からドンッと大きな音が聞こえてきた。
 続いて利津の叫ぶような声が聞こえ、尋常ではなさそうな様子に鼓動が早まった。

「なに? どうしたというの……?」

 ドクドクと心臓の鳴り響く音を鼓膜でも感じながら、琴子は自室の襖をそろりと開ける。

「琴子! どこにいる!? 帰るぞ!」
「っ!」

 聞き覚えのある声に、琴子は思わず身を固めた。
 何故? と疑問に思うが、同時に納得もする。
 手紙の返事が無ければ、あの父は強硬手段に出ると予測出来たはずなのだから。
 父への返事も、朱縁に対しての答えも先延ばしにしたいがために考えないようにしてしまっていたのだ。
 だが、そのことに今気付いても遅い。父は来てしまったのだから。
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