空飛ぶ消防士の雇われ妻になりまして~3か月限定⁉の蜜甘婚~
プロローグ
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 もしも、時を巻き戻せるのなら……二十年前のあの日に帰りたい。

晴馬(はるま)なんか大嫌い!』

 大好きだった人に告げてしまった、その言葉を取り消すことができたなら――。
 
 

 時刻は夜九時、豊洲駅近くの小さなバー。
 とある事情により、恋人と仕事をいっぺんに失うはめになった羽山(はやま)美月(みつき)はカウンター席にひとり、ヤケ酒をあおっていた。

(バーなんて初めて来たけど、案外平気なものだな)

 ひとりの客は多いし、誰も美月を不審に思ったりはしていない。安心して、失意に暮れられる。

 間接照明の淡い光がドン底にいる美月の横顔が照らす。輪郭は綺麗な卵型で、どちらかといえば切れ長ですっきりとした目元に小さめの鼻と口。和顔だとよく言われる。

 美月の仕事はホテリエ、ホテル従業員の総称だ。

 そのため、ヘアメイクは華やかさと知的さを両立できるように心がけている。ファンデーションはマットな陶器肌に仕上がるもの、アイシャドウは上品な艶感のあるブラウン、リップは華のあるローズカラー。
 職場で制服に着替えるので通勤ファッションは比較的自由。今日は、ミントグリーンのシフォンブラウスにネイビーのマーメイドスカートを合わせている。仕事中のお団子ヘアはほどいて、長い黒髪はゴールドのヘアクリップで留めていた。
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