エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
 自身の目の前に置かれたグラスを、美月はぼんやりと見つめる。

 グラスにあと少しだけ残っている、ビールと白ワインを混ぜたカクテル、ビア・スプリッツァーをクイッと飲み干し、今日何度目かわからないため息を落とす。

(恋人はいなくても生きていけるけど、仕事はまずいよね。ちょっと、いや、かなり早まったかな)

 次の就職先のあてもないのに、やめる宣言はさすがに考えなしだったと反省する。だが今から必死に頭をさげて、退職を取りさげたいかといわれるとそれも違う。

(念願だったホテルコンシェルジュにやっとなれたのに……)

「あ~もう!」

 目の前が真っ暗で、進むべき道が見えない。

「マスター。同じの、もう一杯だけお願いします」

 ひとりで一時間以上、そこにいただろうか。

(うぅ、気持悪い)

 お酒はわりと強いほうで、普段は酔っぱらうことなんてないのに。今夜はどうも悪酔いしてしまったみたいだ。

(いいかげん、帰ろう)

 明日は休みだ。ひと晩ゆっくり眠れば、モヤモヤも晴れて妙案が浮かぶかもしれない。そう考えて、会計を済ませたときだった。
 突然、ジリリリリリと狂暴な音量のベルが鳴り響いた。

(え?)

 けたたましく鳴っているこの音がなにか、瞬時には思い出せない。
 一拍置いて、美月はハッと弾かれたように顔をあげる。

(火事! 火災報知器のベルじゃない)
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