空飛ぶ消防士の雇われ妻になりまして~3か月限定⁉の蜜甘婚~
五章 オレンジ色のヒーロー
五章 オレンジ色のヒーロー


 帝都グランデとは違い、パールトンのコンシェルジュには早番と遅番がある。今日、美月は遅番で十一時からの勤務だった。なので、朝に帰宅した晴馬と顔を合わせることになったのだが……。

(露骨に目をそらしちゃった。晴馬、変に思ったよね)

 コンシェルジュデスクの内側からお客さまの様子を見守りつつ、美月は小さくため息を漏らした。平日なので比較的空いていて、いつもより業務量に余裕があった。そのせいか、ついつい仕事に関係のないことも頭をよぎってしまう。

 晴馬には忘れられない人がいて、だからほかの女性が入る余地がないのか? それとも、もっとシンプルに美月をそういう目で見られないだけなのか。

(どちらにしても、私じゃダメなのは間違いなさそう……)

 キスをしたのに『忘れて』と言われ、そこからなんのフォローもない。この状態で期待を持てるほど、美月はポジティブな性格ではなかった。

(そもそも、私のこの気持ちはルール違反だもの)

 自分たちの関係はただの契約、晴馬はビジネスとして割り切った関係を望めると思ったから美月に妻役を頼んだのだろう。

(なのに、好きになったりして)

 彼の迷惑になるだけかもしれない。そう思うと、告白する勇気もしぼんでしまう。ため息とともにうつむきかけたが、向こうからこちらに向かってくるお客さまの存在を認識して、美月は慌てて口角をあげる。

「いらっしゃいませ。――え?」
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