エリート消防士は揺るがぬ熱情で一途愛を貫く~3か月限定の妻なのに愛し囲われました~
 だけど、すっかり気まずくなってしまった彼に教室で話しかける勇気はどうしても出なかった。なので美月は手紙を書いた。

 カナダに発つ前日の夕方、北原の屋敷近くの公園で待つと。

 一方的な約束を押しつけたその日。美月は二時間待ち続けたけれど、彼は現れなかった。

(……仕方ないか)

『晴馬なんか大嫌い!』

 彼に突きつけた言葉のナイフが今度は自分の胸に刺さる。

「……ごめん、ごめんね、晴馬。大嫌いなんかじゃないよ。本当は私……」

 その先を彼に伝える機会は、きっと一生訪れないだろう。

 * * *

 スキンケアを終えた美月は「はぁ」と大きく息を吐く。

 カナダに着いてから、北原夫妻には世話になったお礼の手紙を送ったけれど晴馬へはなんの言葉も書けなかった。きっと嫌われてしまったのだろうと思うと、怖くて電話もできなかった。結局それきり、彼との縁は切れてしまった。

(まさか二十年も経って再会するとは。私が投げつけたあの言葉、晴馬はどう思っているんだろう?)

 子どもの頃のことだし、もう覚えてもいないかもしれない。だけど美月のほうは、いまだに思い出すと心が重くなる。ずっと消えない苦い記憶だ。

(もしかしたら、彼との再会は神さまがチャンスをくれたのかな? きちんと謝りなさいって……)

 晴馬から逃げずに、向き合うべきなのかもしれない。

 
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