王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 悩んだ末、花のお礼を一言だけ書いたカードを送ってからというもの、ジュリアンとは毎日一言メッセージを交わすようになっている。彼からは「昨日はよく眠れた?」「今夜は満月だよ」「ハーブには安眠効果があるんだって」といったリアンらしい一言で、読み返すたびに小さく笑いがもれる。
 当初はお互い無難に相手を気遣う文面だったが、五日も経てば話題は尽きる。
 次第に美味しかったデザートの感想、きれいな鳥の歌声、雨上がりの虹の美しさなど、とりとめのないことを好きなように書くようになった。
 今では、毎朝起きるのがすっかり楽しみになっている。
 封筒からカードを出して文字を目で追う。そして瞬いた。いつものように一言だけ書かれているが、今朝の内容はいつもとは違う。見間違いかと何度も読み返すが、美しい文字は変わらずそこにあった。

 今日、君に会いに行くよ――と。

 ◆◆◆

 予告通り、ジュリアン王太子は昼過ぎにやってきた。
 政務の合間を縫って訪れた名目は、儀式用の聖杯を受け取りにきたというものだった。
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