王族の婚姻に振り回された聖女ですが、幸せを見つけました
 ディクス王国では建国の折に女神から授けられた聖杯が現存している。普段の管理は神殿に一任されているが、豊穣の儀式で使う神具に触れることができるのは王族のみ。
 ただの言い伝えだろうと思っていたが今朝、神殿長から聞かされた話によると、どうやら本当の話らしい。そのため、王太子自らが来たのだという。
 聖杯の保管場所は神殿内の最奥。神殿上層部でも限られた者しか立ち入ることが許されない禁域だ。
 神殿長の計らいで、今回は神殿代表としてクレアが王太子に同行することになった。

「聖女様。本日は貴重なお時間を作っていただき、ありがとうございます」
「……いえ。王太子殿下におかれましてもご健勝のようで何よりです。早速、案内いたしましょう」

 他人行儀なやり取りを経て、神殿長から教えられた道を先導する。
 ジュリアンは護衛騎士を二人連れた状態で、おとなしく後ろをついてくる。王族専用の通路は迷路のように入り組んでいた。侵入者対策の罠を回避しつつ、地下へと進む。
 やがて白百合の意匠が施された白い扉にたどり着いた。
< 47 / 96 >

この作品をシェア

pagetop